北朝鮮からの「援軍」で、ウクライナの戦況はひっくり返るのか…金正恩の思惑と、戦争への影響とは?
ウクライナは北朝鮮の援軍に苦い顔をしているのか
もちろんだ。北朝鮮は軍需品に加えて、今度は人員まで送り込むわけだから、宣戦布告こそしていないが、事実上の参戦に近い。ウクライナ戦争をアジア(と世界)に広げるような行為を、欧米諸国は許すべきではないと、ゼレンスキーは訴えている。 ウクライナにとって良いニュースは10月22日、EUの欧州議会が、ロシアの凍結資産を活用して、最大350億ユーロ(約5兆7000億円)の融資を決めたことだろう。 ただ、対ウクライナ支援の拡大、ウクライナに供給した武器の用途制限緩和、そしてNATO加盟に向けた具体的な道筋を含むゼレンスキーの勝利計画は、欧米諸国で鈍い反応を得たにすぎなかった。 それだけに、北朝鮮の援軍のために戦況が変わることなど、ウクライナはなんとしてでも避けたいところだ。 ■北朝鮮のメリットは? これまでにも北朝鮮は、ロシアに砲弾を供与して食糧援助などの見返りを得てきた。さらに将兵を派遣すれば、大量の死傷者が出るリスクと引き換えに、ロシアからもっと援助を引き出すとともに、世界の舞台で新たな地位を確立できる。軍に貴重な実戦経験を積ませることもできる。 実際、金正恩(キム・ジョンウン)総書記にとって目先のメリットは、現代型の戦争、とりわけ無人機(ドローン)を使った戦争を北朝鮮軍に経験させることだと、韓国の軍事専門家らは語る。ベトナム戦争のとき、アメリカを支援した韓国は、その見返りに軍の近代化を実現した。今回、それと同じことが北朝鮮にも起こるかもしれない。 大国ロシアを助けたことで自信をつけた金が、朝鮮半島内外で一段と大胆な行動に出る可能性もあると、米スティムソンセンターの北朝鮮専門家であるレイチェル・リーは語る。「金はプーチンに貸しをつくったから、今後いざというときにロシアを頼りにすることが増えるだろう」 それだけに欧米諸国は、朝鮮半島有事のとき、中国の関与だけでなく、「ロシアのプレゼンス拡大を心配しなければならない」と、リーは言う。 ■北朝鮮軍のロシア派遣は世界に影響を及ぼすか? まさに、それがいま恐れられていることだ。既に韓国はNATOとの情報共有を強化している。マルク・ルッテNATO事務総長は10月21日、北朝鮮軍のロシア派遣は「(戦争の)大幅なエスカレート」だと述べ、韓国との外交・防衛協議の拡大を強調した。 韓国はこれまで、「ウクライナを支援するが、殺傷兵器は供与しない」という方針を取ってきたが、今はそれを見直す検討に入っている。もし殺傷兵器を供給すれば、韓国もまた、地球の裏側で起きている戦争の拡大に手を貸すことになりかねない。 さらに韓国は、ウクライナが北朝鮮兵を捕虜にしたとき、尋問の通訳を派遣することも検討している。そうなれば、韓国と北朝鮮の対立がクルスクを舞台に展開されることになりかねない。 実戦経験を得た特殊部隊がいずれ北朝鮮に帰ることも、厄介な問題となりそうだ。ある韓国のアナリストが言うように、「北朝鮮が(ロシアに)実戦部隊を派遣すれば、短期的にも長期的にも、朝鮮半島の軍事バランスに影響を与えることになるだろう」。 From Foreign Policy Magazine
キース・ジョンソン(フォーリン・ポリシー誌記者)