牧師の「説教」の最中に会場中が笑いに包まれる!?…キリスト教徒の著者が見た日本とアメリカの「決定的な違い」とは
定年前の50代で「アルツハイマー病」にかかった東大教授・若井晋(元脳外科医)。過酷な運命に見舞われ苦悩する彼に寄り添いつつ共に人生を歩んだのが、晋の妻であり『東大教授、若年性アルツハイマーになる』の著者・若井克子だった。 【漫画】刑務官が明かす…死刑囚が執行時に「アイマスク」を着用する衝撃の理由 2人はどのように出会い、結ばれ、生活を築いてきたのか。晋が認知症を発症する以前に夫婦が歩んできた波乱万丈の「旅路」を、著書から抜粋してお届けする。 『東大教授、若年性アルツハイマーになる』連載第49回 『医師の夫と渡米した日本人妻の“衝撃体験”! 私には意味不明な言葉を長女がスラスラと…』より続く
アメリカの教会
日曜日は近くの教会に礼拝に通った。子どもたちはSunday School(日曜学校)で、遊びながら聖書を学ぶ。私と晋は礼拝に参加する。 私たちが知っている礼拝といえば、静まり返った会場で先生の声だけが響く高橋集会のイメージだったが、ここアメリカの教会はまったく正反対の雰囲気だった。こぢんまりとした集会ではなく、おおむね毎回、100名近い人が集まる。 牧師はジョークを交えて話しているのだろうか、説教の最中、会場中が笑いに包まれることもあった。私の乏しい英語力では理解できないので、晋に幾度か尋ねたことがある。 「ねえ、何を話しているの?」 「大した話じゃないから、わからなくていい」 とはぐらかすくせに、本人は説教をテープに録音し、自宅で聞き返したりしていた。教会以外にも、キリスト教関係のいろいろな集まりが行われていた。 NIH勤務の友人たちは、週に一度、日本から海外にいる仲間のところに巡回で送られてくる高橋集会のカセットテープを聞くために我が家に集まった。金曜日の夜は、現地の日本人牧師が聖書の家庭集会を行っていて、晋はここにも参加していた。持ち回りで会場が我が家になるときは、私も加わる。
牧師の集会で
月に一度だけだったが、日曜の午後にワシントンで開かれる、アメリカ人牧師の日本語集会にも赴いた。集会を主宰するカーネギー牧師は、北海道での伝道経験もあるアーミッシュ出身の方だった。 アーミッシュといえば、自動車や電気などを一切使わず、現代文明とは隔絶した生活を営んでいることで有名だが、アメリカを離れる少し前、ペンシルベニア州にある牧師の故郷を案内していただいたことがある。手ずから畑を耕し、互いに助け合いながら簡素に暮らす人々の姿が印象的だった。 と同時に、このような生活スタイルを受け入れる「アメリカ」という国の、懐の深さを実感したものだ。メリーランドの楽しい2年間は、こうして瞬く間に過ぎ去った。晋にとってはいい「休養」になったろう。 アメリカはこれが最後かも、と、ロサンゼルス近郊にあるディズニーランドと、ハワイに立ち寄り帰国。飛行機のなかで私は、何気なくこう尋ねた。 「日本に帰ったら、何をしたい?」 「まず患者さんの顔が見たい」 やっぱり晋は、医師の仕事が何より好きなのだ。あのアメリカ遊学から20年以上が過ぎ、私たちの旅は沖縄・野毛病院へと舞台を移したが、彼らしさは、ちっとも変わっていなかった。 『「趣味は医者」と豪語…現場が好きなベテラン脳外科医がキャリアをなげうって選んだ「意外すぎる進路」』へ続く
若井 克子