朗読会が静かな人気 生のやり取りの楽しさと緊張感が魅力
THE PAGE
多くの聴衆を前に表現豊かに物語などを読む朗読会が静かな人気です。グループや個人で活躍し、定期的に開く朗読会には常に市民ら数十人が来場。会場に笑い声も上がっています。朗読会の魅力は何か。長野市で12月7日にあった朗読会をのぞいてみました。
太宰名作から地元作家作品まで
長野市内のレストランを貸し切りにした朗読会は、地元の朗読活動グループ「やまぶきの会」(花嶋尚美代表・会員6人)の年に1度の公演で、「玄冬の朗読会」と銘打って開催。午後1時の開演を前に中高年の夫婦など50人以上が集まり、世話役の会員らが椅子の手配に追われるほど。 出し物は、太宰治の短編小説集「お伽草子」(おとぎぞうし)から「カチカチ山」や山本周五郎の作品、長野県出身の児童文学作家・宮口しづえの作品の3本。いずれもマイクを前に立って朗読し、カチカチ山は3人の掛け合いになりました。 花嶋さんがメーンの朗読を受け持ち、タヌキ役とウサギ役の2人の女性会員が絡む「カチカチ山」は、美しい16歳のウサギの気を引こうとする自信過剰の37歳のタヌキが、ウサギの過酷なまでの策略にはまって追い詰められていく様子を表現します。 タヌキがあれこれ思いを巡らし気持ちが落ち込んだり、逆にハイになって大声を出しウサギに足元を見透かされるなど目まぐるしく変わっていく心理描写が聴衆を引き込みます。タヌキの生死にかかわる状況と、平然としたウサギの態度。追い詰められていくタヌキの見当違いの嘆きに会場から笑い声も上がりました。
「こうやって物語を聞くのもいいものだ」
朗読には尺八や、南米などで演奏される楽器アルパの演奏者も加わって物語の雰囲気を盛り上げました。朗読の合間には500円の会費で賄ったクッキー付きのコーヒータイムも設け、聴衆が集中を切らさない工夫も。演目の並びも日本の芸能の3つの構成要素「序破急」に倣い、変化を持たせました。 朗読を聴いた来場者は十分に楽しんだ様子。「こうやって物語を聞くのもいいものだという感想もいただきました」と花嶋さん。「気持ちが安らぐ時間を楽しみに来る人たちのために私たちもやっています」。朗読する人と直接向き合って表現を受け止め、聴衆はその反応を朗読者に送り返す。その生のやりとりの楽しさと心地よい緊張感が、朗読会の魅力を物語っていました。 同会の年末の公演は今年で3回目で、来場者は初回の40人から45人、今回の50人以上へと増加傾向。長野市周辺では仲間同士で朗読の活動に取り組む数グループと個人の活動のほか、朗読のイベントもあり、朗読への関心は高まりつつあるようです。 活動の中心は熟年の女性たち。やまぶきの会のメンバーの多くは20年近い朗読の経験があります。被爆者の手記を朗読する活動などに並行して取り組んでいる人もいます。自身で文芸作品を読むだけでなく、朗読者の表現に新しい意味を見つけ多くの聴衆とともに共感を広げていく朗読会。新鮮な楽しみに関心が集まっています。
----------------------------------- ■高越良一(たかごし・りょういち) 信濃毎日新聞記者、長野市民新聞編集者からライター。この間2年地元TVでニュース解説