日テレが33年の伝統枠「水曜ドラマ」まさかの撤退 なぜ“ドラマ枠の競合”に対する姿勢が一変したのか
ドラマ枠競合で苦汁をなめてきたフジ
今春、水曜22時台の戦いで日テレを撤退させ、月曜21時・22時の編成を模倣される立場のフジには、もう1つ苦しい過去があった。 2010年代中盤、火曜22時台(カンテレ制作)で後発のTBSに戦いを仕掛けられて低迷し、火曜21時台に移動したがうまくいかず、月曜22時台に再移動。一方、TBSの火曜22時台はフジが撤退したタイミングで『逃げるは恥だが役に立つ』が放送されて人気ドラマ枠としてのベースが築かれた。フジは水曜22時台でも、火曜22時台でも(さらに言えば日曜21時台も含め)、「ドラマ枠の競合で苦戦し、撤退する」という負の歴史を繰り返していたが、今回は視聴率だけでなく配信再生を含む判断によって同じ轍(てつ)を踏まなかったことになる。 これまでは競合すると撤退する側だったフジが踏み留まり、踏み留まる側だった日テレが撤退。さらにフジの編成を踏襲するという、これまでの日テレならありえない戦略であるところが示唆に富んでいる。 ■■競合も連続も影響が少ない時代へ 気になるのは、日テレが局の看板枠を終わらせてまで今春から採用する「21時台・22時台にドラマを連続放送する」という編成戦略は、ポジティブなものとは言いづらいこと。これはリアルタイム視聴を最優先に考えられた編成戦略であり、TVerにおけるコネクテッドTV(ネット回線につなげたTV)の再生が3割・月間1億回に急増するなど、リアルタイム視聴者が大幅に減り続けている今、効果は限定的なものに留まる可能性が高い。 言わば、「21時台・22時台にドラマを連続放送する」という編成戦略は、「分母が小さくなる一方のリアルタイム視聴者をつかむものでしかない」ということ。「まだまだ放送収入と配信収入の格差が大きいため、減り続けているのを承知で前者を狙わなければいけない」という民放各局の苦しさが表れているのではないか。 現在、民放各局はTVerにおける新旧ドラマのキャンペーンをテレビ、ネット、街頭などで大々的にPRしている。しかし、スマホやタブレットだけでなくテレビ画面でTVerを見る人も増える中、民放各局の新旧250作が見られるキャンペーンを行えば、自らリアルタイム視聴者を減らしてしまいかねない。 つまり、少なくともドラマに関しては「視聴率が減る」というリスク覚悟でTVerを筆頭に動画配信サービスの利用推進を行っていることは間違いないだろう。その意味で、今後は「放送におけるドラマ枠の競合も、2作連続の編成戦略も、大勢に影響はない」という流れに向かっていくことが推察される。 ■ 木村隆志 きむらたかし コラムニスト、芸能・テレビ・ドラマ解説者、タレントインタビュアー。雑誌やウェブに月30本のコラムを提供するほか、『週刊フジテレビ批評』などの批評番組にも出演。取材歴2000人超のタレント専門インタビュアーでもある。著書に『トップ・インタビュアーの「聴き技」84』など。
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