AIの負の側面「人の認知能力を低下させる」職場や学校で
人工知能(AI)の台頭は医療や教育から金融、エンターテインメントに至るまで、さまざまな産業を大きく変える数々のイノベーションをもたらした。だが、ChatGPTなどの一見無限に見える能力とともに、人間の認知能力が徐々に低下しているという、あまり議論されていない影響も目にしている。 電卓や表計算ソフトなど、人間の思考能力を根本的に変えることなく特定の作業を容易にしたこれまでのツールと違い、AIは情報を処理し意思決定を行う方法を変えており、往々にして我々自身の認知能力への依存度を低下させている。 ■人間の認知能力に対する諸刃の剣 電卓や表計算ソフトのようなツールは、計算やデータ分析といった特定の作業を支援するために設計され、人間の脳が情報を処理する方法を根本的に変えることはない。実際、これらのツールは私たちが目の前の作業の基本を理解することが前提となっている。 例えば、エクセルに数式を入力する前に、その数式が何のためのものなのか、どのような結果を求めているのかを理解する必要がある。こうしたツールは計算の手間を省く一方で、物事を客観的に分析して熟考したり問題解決に取り組んだりする我々の能力を損なうことはなかった。単に厄介な作業を省くだけだった。 一方、AIを活用してできること、そして認知能力への影響という点でAIはより複雑だ。AIが普及し、私たちのために事実上「考える」ようになるにつれ、科学者やビジネス界の人々は私たちの認知能力へのより大きな影響を懸念している。 ■教育分野での批判的思考能力の低下 AIが認知発達に与える影響はすでに全米の学校で確認されている。ペンシルベニア大学の研究者らがまとめた報告書「Generative AI Can Harm Learning(生成AIは学習に悪影響を与え得る)」によると、AIに頼って練習問題を解いた学生は、AIを使わずに課題をこなした学生に比べてテストの成績が悪かったという。これは、教育の場でのAIの利用が単なる利便性の問題ではなく、批判的思考能力の低下を招いている可能性を示唆している。