アンガールズ・田中卓志「看護師の母親が作ってくれた兄弟3人分のお弁当。冷凍食品含めてすべてが愛情だった」
◆海苔弁ミックス弁当の価値 テンションが上がる食事の一つに、ホカ弁も入っている。 うちの近所のホカ弁屋さんは早くに閉まってしまうので、なかなか仕事終わりに買うことができないから、個人的にレアな食事なのだ。ある日、閉店ギリギリに弁当屋さんにかけこんで、海苔ミックス弁当を手に入れた。 ご飯の上におかかがびっしり載っていて、それを海苔で綺麗に覆ってある。あとは唐揚げ、ハム、ケチャップスパゲティ、白身魚のフライ、サラダ。一人暮らし男子としては、こんなに沢山の品目を食べられる弁当は最高の食事である。 お味噌汁もサービスで付いて来る日だったので、心を躍らせ嬉しさを感じながら家に向かう。右手に持っているビニール袋を、お弁当が入っているのに前後に振ってしまうくらい、浮かれていた。
◆今までなかった気持ち 最高の気分でマンションに着き、オートロックのドアを開けて入ったところで、同じマンションに住んでいる友達の芸人、ロバートの山本君が前から歩いてきた。 山本君の後ろには、お子様を連れた奥様もいた。 そのとき、僕の中に今までなかった気持ちが湧いてきた。 『ああ、山本君は、このあと奥様が作った美味しいご飯を食べるんだ……しかも、今日だけじゃなくて、明日も明後日も』 そう考えると、最高の食事だと思っていた海苔ミックス弁当の価値が、どんどん下がっていった。全く価値の無いものにすら見えてきて、これを持ってウキウキしていた自分がものすごく恥ずかしくなった。 そして即座に、海苔ミックス弁当が入ったビニール袋を、太ももの裏に隠した。 必死に山本君と弁当の対角線上に太ももが来るようにしていたので、おそらく山本君には、エロ本かなんかを買ったのかな? と思われただろう。 そのまま山本君夫婦に挨拶をして、僕は自分の部屋に入った。 一人暮らしなんて何にも寂しくないと思っていたけれど、それは強がっていただけ、というのを自覚させられてしまった悲しさに打ちひしがれながら食べる海苔ミックス弁当は、味がなんだか薄くて、中でも元々味が薄い白身魚はほとんどなにも感じなかった。
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