「奇跡のエンディング」と自画自賛の『いちばんすきな花』 藤井風サプライズ登場も残る「物足りなさ」
‘23年10月期で最も注目を集めたドラマ『いちばんすきな花(いち花)』(フジテレビ系)の最終回に、サプライズとしてアーティスト・藤井風が登場。主題歌『花』を弾き語るシーンに、ネット民も大興奮する一幕があった。 【オーラ全開…写真あり】松下洸平が朝の銀座で見せた「爽やかすぎる私服姿」 今作は’22年10月期、同じ木曜劇場で放送され社会現象にもなったドラマ『silent』を制作した村瀬健プロデューサーと脚本家・生方美久がタッグを組み、多部未華子、松下洸平、今田美桜、神尾楓珠、4人の俳優が主演を務める“クアトロ主義”のドラマ。 ‘17年に放送され、数々の賞に輝いたドラマ『カルテット』(TBS系)を思わせる展開に、始まった当初から大きな注目が集まっていた。 「そのラストシーンに、藤井風がまさかの登場。村瀬Pも『奇跡のようなエンディングを作ることができた』『ふと思いついたアイディアを実現させてしまった。 大好きなアーティストが、大好きな曲を、大好きな場所で、大好きな役者さんたちをバックに歌っている。文字通り、夢のような時間でした』と興奮を隠せない様子でした」(ワイドショー関係者) 『いち花』の最終回は放送時間を延長。藤井風が登場するサプライズシーンを、放送当日に収録してオンエアに間に合わせたという。 しかし、この最終回。果たして、“奇跡のエンディング”と、自画自賛しても良いのだろうか……。 確かに最終回では、ゆくえ(多部)の“相撲エピソード”をはじめ、夜々(今田)が務める美容院には初恋の人と結婚した“むらさきちゃん”がやってくる。紅葉(神尾)の“ゴミになるかは、人それぞれ論争”など、様々な伏線回収が行われた。 カレーを作り過ぎ、椿は弟の楓(一ノ瀬颯)を、ゆくえは妹のこのみ(齋藤飛鳥)を呼ぶことにする。ところがゆくえの男友達・赤田(仲野太賀)、さらには椿の元婚約者の純恋(臼田あさ美)まで来てしまう展開も秀逸だ。 “2人組を作るのが苦手”な4人の『カルテット』を思わせる会話劇は、終盤に至るまで魅力的であり、視聴者の心を掴んで離さなかった。 それでも“何かモノ足りない……”と思ってしまったのは、私だけだろうか。 「ラス前に、夜々は椿への思い、紅葉はゆくえへの思いをぶつけるも、叶わないことが明らかになる。つまり“2人組み”には、ならない4人。 その4人が最終回では“椿ハウス”を去る日まで一緒に暮らす。そこで描かれるキメの細かい伏線回収が、まるでこの作品全体のエピローグにようにしか見えません」(制作会社プロデューサー) さらに今作のテーマ“男女の間に友情は成立するのか”についても、“椿ハウス”の元の住人で、再び戻って来る志木美鳥(田中麗奈)によって、 ゆくえ「男女の友情ってさ、成立するの? しないの?」 美鳥「どっちでもいいんじゃない?」 “人それぞれだから、どっちでもいい”と、いとも簡単に終止符が打たれる。 最初から正解はないのだから、この答えに不満があるわけではない。だが、なぜか予定調和に見えて仕方がない。 例えば『カルテット』。弦楽器を楽しむ30代のアマチュア演奏家の4人がある日カラオケボックスで偶然出会い、カルテット「ドーナツホール」を結成して軽井沢で共同生活を始める。 “唐揚げレモン論争”を始め、初回から繰り広げられるエッジの効いた会話劇。脚本を手掛ける坂元裕二は、 「おかしな人たちが、軽井沢の別荘で楽器を弾いて暮らしているフワフワした話は、なかなか今のテレビではできないから、なんとかフワフワしたまま押し切ってやろうと思った」 と語っているが、出来上がったドラマは、そんな“フワフワしたもの”ではなかった。 「4人の出会いは、決して偶然ではないことが次第に明らかになる。やがて松たか子演じる巻真紀には、夫・幹生(宮藤官九郎)の失踪問題が発覚。しかも戸籍を買取り、“真紀”として生きてきた辛い過去も判明。 さらに戸籍買いに伴う違法行為で執行猶予となり、“義父殺害の疑惑”もかけられメディア・リンチにあう。想像をはるかに超える展開が待ち伏せている。まさに“大人のラブサスペンス”と呼ぶに相応しい作品でした」(制作会社ディレクター) それでも他の3人は彼女を最後まで信じて、4人は念願だったホールコンサートを行う。つまり大団円までドラマ『カルテット』には、予定調和など微塵も入り込む余地のない仕掛けがあちこちに張り巡らされている。こうした背景を背負う“会話劇”だからこそ、セリフの一言一言に深みが出るのではないか。 ドラマ界に話題作を生み出す『村瀬プロデューサー×生方脚本』の強力タッグ。2人が咲かせに行く、“次なる花”は一体どんな作品になるのか。次回作を待ちたい――。 文:島右近(放送作家・映像プロデューサー) バラエティ、報道、スポーツ番組など幅広いジャンルで番組制作に携わる。女子アナ、アイドル、テレビ業界系の書籍も企画出版、多数。ドキュメンタリー番組に携わるうちに歴史に興味を抱き、近年『家康は関ケ原で死んでいた』(竹書房新書)を上梓。電子書籍『異聞 徒然草』シリーズも出版
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