ホンダと日産の統合を5年前から予言していた男 現代の「薩長連合」が結ばれた転換点とは
その井上が、日産CEOのカルロス・ゴーンが逮捕されて間もない2019年4月の段階で「今日」を予言していた。 文藝春秋に寄稿した「『日産・ホンダ連合』が誕生する日」である。8ページにわたる記事の多くは当時の日産の苦境を詳述したものだが、記事の後半で「実はホンダも四輪事業が振るわない」と指摘し、「部品メーカーの連携を図るためには『親企業』の日産、三菱、ホンダの連携は欠かせない。『非トヨタ連合』の結成というわけだ」と言及。「ゴーンショックとホンダの凋落が、自動車業界の大再編を誘発することになるかもしれない」としめくくっている。 ■現代の薩長連合、坂本龍馬役は 週刊エコノミスト20年10月13日号にも同趣旨の記事を寄稿し、「実は水面下で日産とホンダの話し合いは続いているようだ。その際にカギとなるのが軽自動車とEV、『三菱』の三つだ」と指摘。ホンダと三菱自動車のメーンバンクが三菱UFJフィナンシャル・グループである点をとらえ、こう洞察した。 「日産とホンダによる提携が成立すれば、それは現代における『薩長連合』だ。その薩長連合を仲介したのが坂本龍馬だが、『龍馬役』を果たせるのは両社と関係を持つ三菱UFJフィナンシャル・グループなのかもしれない」 なかなかの慧眼である。 井上に聞いた。 ──日産かホンダに内部事情を提供してくれるディープスロートがいたのですか? 「いや、そうじゃないんです。自動車産業が電気自動車(EV)にシフトし、IT技術を駆使したスマートカーになっていく。最近は『ソフトウェア・ディファインド・ビークル(SDV)』と言われていますが、つまりクルマのスマホ化が進む。そのときに莫大な開発投資がかかります」 そこがポイントだ。 しかし、足元を見れば、日産は主力市場の米国で塗炭の苦しみを味わい、経営危機に陥っている。しかも、実はホンダとて振るわない。 「ホンダの四輪事業は2010年代後半からずっと不振で、低い利益率にあえいでいます。それをカバーしているのが稼ぎ頭の二輪事業なんです。このままでは日産のみならずホンダの四輪も厳しい。そこで頭の体操として、日産とホンダによる『非トヨタ軸』の創出を考えたんです」 ■水面下で協業を模索 1台の車は3万点の部品からなると言われるほど自動車産業は裾野が広い。日本の就業人口の8%を占める558万人が働く。 「日産やホンダが衰退すると、両社と取引している部品メーカーが生き残れなくなる。そうなると、雇用や地域経済に甚大な影響を与えます」 世に一石を投じるつもりで書いた記事だが、いかんせん時代に早過ぎ、当初は両社とも無反応だった。変化の兆しが現れたのは、三部がホンダ社長に就任した21年のころだった。三部は社長に内定したことを発表した同年2月の記者会見で「会社全体で大きな転換とスピードが求められる。必要であれば外部の知見を活用し、アライアンスの検討などを含めて躊躇なく決断・実行する」と述べた。