牛久絢太郎が斎藤裕を返り討ちのRIZINフェザー級タイトル戦線が面白くなってきた理由とは…朝倉未来「俺の方が強い」と挑発
3ラウンドに斎藤は一発逆転の勝負に出た。 「ダウンを取るか、それくらいの攻撃をしないと勝てないと思った」 参謀の石渡伸太郎氏も「倒しにいくぞ」とGOサイン。前回対戦で顔面を裂かれ、ドクターストップの原因となった飛びヒザ蹴りをお返しとばかりに連発させ、左右のパンチを被弾覚悟でぶん回した。 怒涛のラッシュ。だが、牛久は冷静だった。飛びヒザ蹴りはガードし、パンチは、ステップバックでかわす。試合後に斎藤が「もう半歩。ワンツースリーまで打てたら」と悔しがるステップワーク。しかも、そこに次なる仕掛けを用意していた。 大晦日に斎藤が敗れた朝倉未来戦にヒントを得たカウンターの左フックである。 「フック系のパンチをもらっていたので参考にした」 斎藤は、まともに食らい、また腰から落ちた。 「ハイライト(映像)で見るとしっかり(腰が)落ちているので、ダメージで見ると(ポイントで)届かないかと」 斎藤も敗戦を認めた。 昨年の10月に斎藤のベルトに挑戦。朝倉との再戦がほぼ決まっていた斎藤をTKOで下す“番狂わせ”を起こしたが、跳びヒザ蹴りによる流血ストップで「たまたま」「ラッキー」などの評価がネットを騒がし、真の王者と認めるような声は、そう多くはなかった。 この試合ではベルトを守り斎藤を返り討ちにすると同時に真の王者と認められる試合内容を見せなければならなかった。それはプレッシャーとなって牛久にのしかかった。 「今度は挑戦者ではなく防衛する形での試合。そのプレッシャーが凄かった。大きな舞台だからこそ、プレッシャーが凄かったが、それが自分を強くしてくれた。自分に自信がなきゃ試合ができなかった」 重圧に打ち勝つ方法は練習しかなかった。 「練習は毎回毎回きつい。追い込みを積み重ねて試合前に自信に変わる。表現は難しいが、限界まで追い込んでいくと、“これだけやったんだから、もう悔いがないだろう”と思い、それが一気に自信に変わる」 その自信はリングに上がる直前にふっと湧き上がったという。 「斎藤選手は本当に尊敬というか、リスペクトできる選手。彼に勝てたのはでかい。先のことは考えていなかった」 減量もあり、1か月の間、断っていたチーズケーキを食べたいと笑ったが、RIZINのベルトを持つ王者に休息はない。 牛久の勝利を確かめるとすぐに朝倉未来がツイートした。 「牛久、男が簡単に泣くなよ」 そしてこう連発した。 「正直なところチャンピオンより俺の方が強いと思うね。 でもってチャンピオンより強いのがチラホラいるな」 元々は、このベルトの王座決定戦で、朝倉が斎藤に敗れ、再戦が決まる前に斎藤が牛久にベルトを明け渡していた。朝倉は大晦日に斎藤にリベンジを果たしたが、それはノンタイトル戦だった。巡り巡って今なお手にできていない因縁のベルトだけに朝倉は得意のSNSを使って挑発を仕掛けたのだろう。 会見で朝倉のツイートについての反応を求められた牛久は戸惑っていた。 「男なら泣くなよ…確かに…どうなんですかね。僕も泣いてばっかりですね。涙腺弱いかも」 肝心の部分への反応はしなかったが、メディアに突っ込まれ、「どうかな?なんも考えてなくて…でも、面白くなりそうですね」と笑って答えた。 実は挑戦者の第一候補は朝倉ではない。 休憩時間に榊原CEOは、5月5日の「RIZIN LANDMARK vol.3」で昨年6月の対戦で朝倉を失神させたクレベル・コイケと萩原京平とのスペシャルワンマッチを発表し、コイケが勝った場合、フェザー級タイトル挑戦の第一候補であることを明かしていた。 「挑戦権があるのはクレベルだと思う。(タイトル戦までに)1試合挟みたいということで萩原京平戦を組んだが、アップセットが起きれば振り出しに戻る。何が起きるかわからない」 萩原がアップセットを起こせば、挑戦者候補は混沌とするだろう。朝倉がツイートで「強いのがチラホラいる」と暗に示唆したのが、自らが黒星を喫したコイケなのだろうが、フェザー級のベルトを巡ってタイトル戦線が熱くなってきたことは確かだ。 裏を返せば、牛久のベルトがまだ甘く見られているのかもしれない。 「みんな勝てるから言うんですかね。みなさんの評価が低いのかな。それは感じますね。やりたいと言わせないくらい強くなりたい? はい。そうです」 次の戦いについて言葉を濁す牛久が、このときばかりは自己主張をした。 そしてRIZINのリングで成し遂げたい夢の話をした。 「勇気と感動を与えるファイターになりたい」 2度目のタイトル戦は7、8、9月の暑い夏になるだろう。 対戦相手は大本命のコイケなのか。朝倉なのか。はたまた萩原なのか。 牛久は「次は泣かないんじゃないですか…わからないですが」と言う。 それは「たまたま」と卑下されてきた王者が、斎藤を返り討ちにした自信が言わせた言葉だったのかもしれない。 (文責・本郷陽一/論スポ、スポーツタイムズ通信社)