<インド・炭鉱>ネズミの穴 ── 高橋邦典フォト・ジャーナル
細く狭く、真っ暗闇の炭坑道。頭につけたランプが照らす黒い岩肌しか、目に入ってくるものはない。しゃがみこみ、頭を垂れてなんとか歩を進めるが、カメラを抱えていては身動きもままならない。頭上からは水が滴り、岩壁に手が触れるたびに真黒の煤がこびりつく。5メートルほど進んだところで、これではまともに撮影もできないと、僕は奥に進むのをあきらめて、入り口付近まで引き返した。悪名高い「ネズミの穴」に入った時のことだ。
インド北東部、バングラデッシュとの国境を擁するメガラヤ州。緑の生い茂るこの丘陵地も、インド有数の石炭産出地のひとつだ。広大な炭鉱地ジャインティア・ヒルズでは、丘陵にポッカリと口をあけた大小の穴があちこちにみうけられる。採掘済みになった炭坑の跡だ。地上に続くこの穴の底からいくつも枝分かれして続く小さな坑道が「ネズミの穴」。この狭く危険なトンネルで作業するために、小柄で身動きがとりやすい子供たちが多く雇われていた。社会問題になってから近年その数を減らしつつあるが、今でも炭坑から子供たちの姿が無くなったわけではない。 (2014年4月) ---------------- 高橋邦典 フォトジャーナリスト 宮城県仙台市生まれ。1990年に渡米。米新聞社でフォトグラファーとして勤務後、2009年よりフリーランスとしてインドに拠点を移す。アフガニスタン、イラク、リベリア、リビアなどの紛争地を取材。著書に「ぼくの見た戦争_2003年イラク」、「『あの日』のこと」(いずれもポプラ社)、「フレームズ・オブ・ライフ」(長崎出版)などがある。ワールド・プレス・フォト、POYiをはじめとして、受賞多数。 Copyright (C) Kuni Takahashi. All Rights Reserved.