映画『ヒットマン』実在した“ニセモノの殺し屋”が見せる七変化!?
──12年という月日をかけて撮影した『6才のボクが、大人になるまで。』も、同じような気持ちで挑んでいたんですか? 常にベストを想定します。周りには、「もし何か問題が起きたらどうするんだ?」とか「もし誰かが死んだらどうするんだ?」とか思っていた人もいたみたいだけど、自分が何もしなくても誰かは死ぬだろうし、マイナス面ばかり見ては生きられないじゃないですか。特に、芸術の世界では、きっとうまくいくだろうと楽観的にならなきゃいけない。結局、やってみないとわからないしね。私自身、映画は楽観的につくるものだと思っています。映画をつくる人なら誰しも、みんながその映画を気に入ることを願っているだろうし、自分たちがやっていることには正当な理由があって、うまくいけば、本当にいいものになるかもしれないと考えているものです。人々が反応しないだろうと思うような映画、撮らないでしょう?だから、楽観的になるために、ちょっと妄想的になる必要はあるかもしれません(笑)。 ──『ヒットマン』はロマンス、ノワール、スリラー、コメディとさまざまなジャンルがミックスされ、世の中で求められがちな「わかりやすさ」とは反対に複雑だから面白いと感じさせてくれる作品ですが、この「わかりやすくあるべき」という風潮に対しては、どう感じていますか? 遡れば、ずっと前から続いていることだと思います。映画の予算が大きければ大きいほど、多くの人に気に入ってもらうためにわかりやすくある必要がある。『スター・ウォーズ』シリーズのような超大作が生まれた時代であっても、昔の戦争映画のように、善玉、悪玉がいて、その境界線は実にわかりやすく、単純化された道徳観や人間観がある。複雑な物語に入り込みすぎると、シンプルなキャラクターやわかりやすい語りを求めるという反動もありますよね。でも、私は大人は複雑さを評価する生き物だと思うんです。そういう意味で、アクション映画ではなく、ロマンティックなクライム・コメディ『ヒットマン』は大人のジャンルに属する映画だなと。だから、シンプルであるべきなんてことを考える必要はありませんでした。それに、自分は物語の登場人物にできるだけ深みを持たせたいと考えていますが、自分のいる小さなサブジャンルだからできることだともわかっているんです。 ──ある意味、規模が小さいから自分らしく映画がつくれると。 はい。もし自分が2億ドルのアクション映画をつくるとしたら、売らなければいけませんからね。一方で、私が映画の歴史をリスペクトするのは、セシル・B・デミル(1881-1959)はキャラクターもストーリーもシンプルだったけど、それは大昔の話です。そして、1968年にスタンリー・キューブリック(1928-1999)の大作『2001年宇宙の旅』が年間世界興行収入の1位を記録する。こんな作品が大ヒットしたなんて、現代の人々には想像も理解もできないんじゃないかな。あまりに不透明で、映像的で、額面通りの作品ではないからね。最初のうちは人々に届きにくいのが常ですし、嗜好は変化するものです。だから、答えはわからないけど、自分の仕事をするしかないですね。 ──最後に、好きなことを仕事にしながら生涯現役でいたいと考えている後に続く世代に一言いただけたらと! 自分自身の親友になることかな。なぜって、誰も助けてくれないとか、これは自分が本来やりたいものではないと感じる機会は多いですから。私の場合も、映画学校に入れなかったし、公的な機関からは支援してもらえなかったし、誰も受け入れてくれませんでした。でも、友達はいたんです。だから、公的な世界が何もしてくれなくても、自分がつくり上げている世界にいることが素晴らしいと感じられたし、何があっても挫けなかった。芸術の素晴らしいところは、自ら自分の世界をつくり上げられることですよね。そのときに外からの承認を求めてはいけないのは、早々には得られないものだからです。感情的にそれが必要であってもね。つまり、自分のやっていることを信じて、結果は考えないこと。それが、自分自身であるということだと思う。何かに人生を捧げるって、そもそもうまくいくことを願ってするものですから。 ──そのポジティブな実行力があなたの若々しさの源だと思います。80代、90代でも、アクティブに映画を撮り続けている姿が容易に想像できるというか。 ラッキーなことに、どうして自分はこれを映像化しないんだろう?と人生で思い描いた多くのアイデアは実現できました。だから、やり続けます。運を使い果たすまでね。 ●『ヒットマン』 大学で心理学と哲学を教える傍ら、地元警察に技術スタッフとして協力していたゲイリー・ジョンソン(グレン・パウエル)は、急遽おとり捜査で殺し屋役を務めることに。その後、さまざまな姿や人格に変身する才能を開花させ、次々と逮捕へ導くが、夫の殺害を依頼してきた女性・マディソン(アドリア・アルホナ)と恋に落ちてしまい――。 監督_リチャード・リンクレイター 脚本_リチャード・リンクレイター、グレン・パウエル 出演_グレン・パウエル、アドリア・アルホナ、オースティン・アメリオ、レタ、サンジャイ・ラオほか 配給_KADOKAWA 2023年/アメリカ映画/英語/115分/シネスコ/カラー/5.1ch © 2023 ALL THE HITS, LLC ALL RIGHTS RESERVED 9月13日(金)、新宿ピカデリーほか全国ロードショー ●Richard Linklater リチャード・リンクレイター>>監督・脚本・プロデューサー。オースティン映画協会の芸術監督を務める。同協会は、レパートリー・シアターの運営、映画スタジオの管理、テキサス州の映画製作者への220万ドルを超える助成金交付などを行う国内最大級の映画団体である。主な長編映画は『バッド・チューニング』(93)、『ビフォア・サンライズ 恋人までの距離<ディスタンス>』(95)、『スクール・オブ・ロック』(03)、『ビフォア・サンセット』(04)、『がんばれ!ベアーズニュー・シーズン』(05)、『ビフォア・ミッドナイト』(13)、『6歳のボクが、大人になるまで。』(14)、『エブリバディ・ウォンツ・サム!! 世界はボクらの手の中に』(16)、『30年後の同窓会』(17)、『バーナデット ママは行方不明』(19)、『アポロ10号 1/2:宇宙時代のアドベンチャー』(22)など。 Text&Edit_Tomoko Ogawa
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