ブラジルのフラッグキャリア「ヴァリグ航空」はなぜ破綻したのか? かつては日本~ブラジルを24時間で運航、その栄光と悲劇を振り返る
LATAM誕生の裏側
ヴァリグ・ブラジル航空の没落後、ブラジルの事実上のフラッグキャリアはTAMブラジル航空に移行した。同社は国内線や南米だけでなく、北米や欧州にもネットワークを拡大し、2010年にはスターアライアンスに加盟することで、ヴァリグ・ブラジル航空とほぼ同じ役割を果たすことになった。 しかし、2010年にチリを拠点とするLANグループと合併し、以降はLAN航空と同じワンワールドに加盟することとなった。会社名は2016年以降LATAMに変更された。さらに、2019年前後には経営に苦しみ、LATAMはスカイチーム陣営のデルタ航空からの出資を受けた結果、翌年にはワンワールドを脱退することになった。 その後、コロナ禍に突入し、2020年5月には米国の連邦破産法第11条を申請することになった。一方、ヴァリグ・ブラジル航空を買収したゴル航空もコロナ禍の影響を受けて負債が増加し、2024年1月には連邦破産法第11条の適用を申請した。 また、隣国コロンビアの大手航空会社アビアンカのブラジル子会社も2020年7月に破産してしまった。伝えられた3社のなかで、LATAM航空とゴル航空は運航を続けているものの、経営基盤の脆弱(ぜいじゃく)さが報じられ、安定感がない状況となっている。
40年の定期便の終息
日本からブラジルへの路線は、ヴァリグ・ブラジル航空が撤退した後も、JALがニューヨーク経由でサンパウロまで運航していた。しかし、同社が経営破綻したため、2010年に運航が停止され、40年以上続いた日本とブラジルの定期航空便の歴史に幕を下ろすことになった。 現在、日本とブラジルの間は、ビザが比較的取りやすいカナダや欧州、2000年代以降に路線網を拡大したドバイやドーハなどの中東、さらにはエチオピアを経由するのが主流となっている。ただし、直行便の復活に向けた動きも見られている。 かつて運航していたJALは、2014年4月に経営再建を完了し、B787を使ってサンパウロ線を復活させる構想を持っていることを共同通信のインタビューで明らかにした。また、ブラジル側でも、2016年にLATAM航空が合併した際、当時の日本支社長が 「遠い将来」 としつつも日本への就航に前向きな姿勢を示していた。 これらの構想は2024年現在も実現していないが、航続距離がさらに伸びれば、成田空港または羽田空港からサンパウロやリオデジャネイロ行きの南米直行便を再び見かけることができるかもしれない。
直行便復活の期待
ヴァリグ・ブラジル航空は、世界の航空会社のなかでも古い歴史を持ち、南米最大規模の航空会社として知られている。 しかし、名門であっても、経営腐敗が進むなか、他社に勝る競争力を持たなければ、あっという間につぶれてしまうこともある。これは航空会社経営の難しさを示すひとつのエピソードといえる。 また、ヴァリグ・ブラジル航空が長年運航していた日本とブラジルの直行便は、その運航距離や所要時間によって、多くの日本人に 「旅情」 を与えていた。地球の裏側、ブラジルへの路線が再び復活することを願って、本稿を締めくくりたい。
前林広樹(乗り物ライター)