野茂英雄「シャンパンかけが始まって5分もするとマスコミが入ってきたので邪魔になったというか…」ドジャース初年度に地区優勝を果たした野茂の手記
鳴り止まないNOMOコール
ペナントレースも押し迫ってきたあたりから、優勝の夢を語る野茂の言葉には自然と熱がこもっていった。 「みなさん勘違いしてるんですよ。僕がこれほど優勝に憧れているのは、今まで優勝したことがないからではなくて、社会人時代に小さな優勝を経験しているからなんです。だからこそプロで、もっと大きな優勝を手に入れたい。仲間たちと心から喜びを分かち合いたいと思うんです」─ 野茂は新日鉄堺での3年目に大阪の都市対抗第1代表となっている。 近鉄時代は、投手タイトルをほしいままにしていた野茂だが、個人表彰の喜びとチームメート全員で味わう喜びでは、感激の度合いも全然違ったということなのだろう。 逆に言えば、ドジャースにはともに喜び合える仲間がいるからこそ、これほどまでに優勝に固執していたのだ。 優勝決定直後に、こんなシーンがあった。 最後のアウトとなるセカンドフライをキャッチしたデシールズ(現セントルイス・カージナルス)が、ウィニングボールを野茂に手渡したのだ。そして彼は言った。 「誰に渡そうかと思ったけど、ふさわしいのは、やっぱり野茂だね。それは今日の試合に限ったことではなくて、今シーズンの彼の功績を考えても受け取るのは彼であるべきさ」 シャンパン片手に大はしゃぎする野茂の姿は、無邪気な野球少年そのものだった。それは単身、海を渡り、一騎当千のメジャー・リーガー相手に命懸けの闘いを演じてきた男に、神が与えた、ささやかなる報酬のようにも見えた。 そしてシャンパン・ファイトが終わってからも、仲間からの「NOMO!NOMO!」のシュプレヒコールが止むことはなかった。(解説・二宮清純) モノクロ写真/書籍 『ドジャー・ブルーの風』より 写真/shutterstock ---------- 野茂英雄(のも ひでお) 日本人メジャーリーガーのパイオニア的存在。大阪府大阪市港区出身。26歳の頃に年棒980万円でロサンゼルス・ドジャースと契約。初年度に13勝6敗を記録し、チームの7年振りの地区優勝に貢献。独特の投げ方はトルネード投法と呼ばれ、人気を博し、NOMOフィーバーを巻き起こした。現在もサンディエゴ・パドレスでアドバイザーを務めている。 ----------