無味乾燥な「機械的な公平」報道 ── 水島宏明氏に聞く(2)
こうしたお約束で、選挙が公示された瞬間から投票が終わるまではニュースは以下のようになります。 まずそれぞれの遊説風景や演説の言葉を伝えるなど個別に伝える場合は原則として「党首」クラスになります。それぞれの選挙区事情などで個別にその選挙区の候補者全員を紹介する時以外は個々の候補者(政治家)の名前や顔は出てきません。公示後に顔が出てこない、後ろ姿だけの映像やマイクのアップ、有権者に向けて振っている白い手袋をつけた手元のアップの映像など、どの政党の候補者なのか誰なのかが分からない映像ばかりになるのは、有権者に予断を持たせずに「選挙の公正」を保たなければいけないからです。 選挙期間中、各政党ごとにほぼ同じ秒数の映像と音声(党首の訴えなど)の編集方法など「機械的な公正」で番組を作るやり方は、いわばテレビ報道の「お約束」になっています。テレビの制作者や記者たちからすれば、余計なことを考えずに「わりきった」形で放送をするわけです。 でも視聴者からすれば、同じ秒数で各政党が登場するわけですから、現在のように小さな政党が乱立した状態になると、大政党の後で小さな政党が次々と登場します。同じようなことを言っている場合もあって、番組としてメリハリもなく単調。つまらないニュースが放送されることになります。 ---------------- 水島宏明(みずしま ひろあき) 法政大学教授・元日本テレビ「NNNドキュメント」ディレクター。1957年生まれ。東大卒。札幌テレビで生活保護の矛盾を突くドキュメンタリー 『母さんが死んだ』や准看護婦制度の問題点を問う『天使の矛盾』を制作。ロンドン、ベルリン特派員を歴任。日本テレビで「NNNドキュメント」ディレクターと「ズームイン!」解説キャスターを兼務。『ネットカフェ難民』の名づけ親として貧困問題や環境・原子力のドキュメンタリーを制作。芸術選奨・文部科 学大臣賞受賞。2012年から法政大学社会学部教授。近著に『内側から見たテレビ』(朝日新書)。