松下奈緒『風の奏の君へ』では演奏はもちろん作曲も担当「セリフを発しても、音楽を奏でても。どんな仕事をしていても最終的には自分」
NHK連続テレビ小説『ゲゲゲの女房』で、ヒロインを演じて一躍人気俳優になった松下奈緒。音楽大学在学中にピアニスト役でドラマデビューを飾り、現在も俳優、音楽家の双方で活躍。今年で20周年を迎えた。常に凛とした姿が印象的な松下さんの語るTHE CHANGEとはーー。 ■【画像】俳優でミュージシャンの松下奈緒、ピアニスト役を熱演『風の奏の君へ』では演奏はもちろん作曲も担当 俳優として朝ドラのヒロインを務め、ミュージシャンとして作曲したり、各都市へツアーで回ったりと、どちらの活動も続けている松下さん。新作映画『風の奏の君へ』で演じるピアニスト・里香役の演奏は、当然ながら吹替えなし。物語で重要なパートを担う曲も松下さんが作曲している。 ――ピアニスト役は、ご自身に近い分、逆に難しさを覚えることはありませんか? 「曲を書いて演奏して、コンサート活動もしてという役が、自分の環境、境遇とあまりにも似ているので、自分をどこまで出すのか、どこまで抑えられるのか。どっちなんだろうというところには、確かにすごく迷いがありました。里香の物語であって、私の物語ではないですから」 ――同時に、松下さんだからこそ深く演じられる役でもあります。 「自分の色をどうすればいいのかという悩みはありました。けれど向き合っていくなかで、どうやって曲が生まれていくのか。何かを残したい、この瞬間を曲にしたい、この思いを曲に乗せたいといった思いに、納得がいきました。私自身が劇中の曲やエンディングの曲を書かせてもらえることと、里香を演じることが、ちゃんと成立できると。最初は、どこかで里香を演じることと、音楽を作ることを別に考えていたのかもしれません」
現地でロケをさせてもらうことの大切さ
――里香として弾くという部分に関してはいかがでしたか? 「実際、そこが難しいところでした。弾けるからこその難しさがやっぱりありました。何が里香らしいのかと言うと、やはり曲。そこに一番彼女らしさが出る。里香のことは、映画の中では多くは語られていないんですよね。もと恋人の淳也さん(山村隆太)との繋がりにしてもそうです。映像にはなっていない部分がある。だからこそ語られていない部分を、音楽で埋めることができたらいいなと感じながら作っていました」 ※『風の奏の君へ』は、岡山県美作地域を舞台に、ピアニストの里香と、茶屋店を営む淳也、そして弟の渓哉(杉野遥亮)との関係を中心に見つめていく人間ドラマ。 ――美しい地域映画でもあります。実際に美作で撮影されたとか。 「それこそ美作で撮影しなければ、この役柄をちゃんと実感を持って演じられなかったと思います。その場所での空気感って絶対にあり、曲も作れなかったと思います。風とか、土地の匂いとか。現地でロケをさせてもらうことの大切さは、今回も改めて感じました。それから渓哉くんや淳也さんとのやりとりも、台本で読んでいるだけでは感じられないことがたくさんありました」 ――里香は、一度美作を訪れて離れ、2年後にある思いを胸にふたたび土地を訪れます。 「2年分の思いを抱えて美作に来るというのが、この物語が動き出す部分だと思いました。どういう顔をして、淳也さんの前に現れるのか。考えれば考えるほど難しいと思いました。でも撮影の初日には、そうしたことを考えつつも、忘れる勇気が必要なんですよね。だからとにかく、今日私はここに初めて立ちましたと。そこで何を思うのか。余白を持って臨みました」 ――そこまでに準備をしながら、現場では忘れる。その勇気を持つ。 「考えなしに行くということではなく、考えて悩んで、いろんな答えを自分の中では持っていくんですけど、実際にそのときその場で何を感じるかは、やってみなければわからない。なので、そこまでに考えていないわけではないんですけど、その考えを一度置くことをしながら撮影に臨んでいました」 ――それはどの役でもそうですか? 「ドラマの場合は話数がある分、そんなに時間が取れない事もありますけど、下調べや準備をして、いろんなことを考えてから、勇気を持って忘れます。なかでもこの作品では、美作の広大な自然の中で何を思うかが大事だったと思います。この物語は、結構意外なことが起こったりするんですけど、時間はゆっくり流れている印象があるんです。それにはこの風景、空気感がやっぱり必要だと感じました。その空気を感じられる時間をもてたことも、今回は贅沢でした」 望月ふみ
望月ふみ