テーピングをはがして登板した松坂大輔が雰囲気を変えた 横浜-明徳義塾戦のサヨナラ劇 ベースボール千一夜
11月に行われた明治神宮野球大会の高校の部は横浜(神奈川)が決勝で広島商に勝ち、秋の「高校日本一」に輝いた。「平成の怪物」と呼ばれ、後にプロ野球や米大リーグで活躍した松坂大輔がエースだった1997年以来、2度目の優勝。松坂を擁したチームは神宮大会をはじめ、春の選抜大会、夏の選手権、そして国体と全国大会4冠を遂げ、公式戦負けなしの44連勝を達成した。もちろん楽に勝てた試合はほとんどなく、強力なライバルが次々と立ちはだかった。今回の神宮大会では横浜-明徳義塾(高知)の対戦が実現。同じカードだった98年夏の甲子園準決勝の激闘を思い出しながら見た。 この一戦ほど、甲子園の怖さを感じた試合はなかった。松坂は前日行われた準々決勝のPL学園(大阪)戦で延長17回を250球で完投した影響で、準決勝は先発登板を回避し、「4番・左翼」で出場した。マウンドに上がったのは下級生。序盤から明徳ペースで、八回表を終えて明徳に0-6と大量リードを許した。 それでも松坂は試合を諦めていなかった。五回ごろから右腕にテーピングをしたまま、ブルペンで投球練習を始めると、甲子園はざわついた。八回裏にようやく4点を返し、九回に松坂がテーピングをはぎ取ってマウンドに向かうと、スタンドは大歓声に包まれた。ネット裏の記者席で、横浜の選手は奮い立ち、明徳ナインは2点をリードしているのに、明らかに浮き足立っているのが分かった。名将たちはよく「甲子園の魔物は観客だ」と話すが、まさにそんな光景だった。 松坂は九回を抑えた。その裏、相手エラーにも乗じて3点を奪い、サヨナラ勝ち。明徳のエース左腕の寺本四郎がマウンドでうずくまる姿が印象的だった。 そんな幕切れだったから、現在も指揮を執る明徳の馬淵史郎監督にとって横浜は特別な存在だ。「うちは甲子園では松坂、成瀬(善久=元ロッテ)、涌井(秀章=中日)と対戦して、3度とも逆転負け。(元監督の)渡辺(元智)さんには『まだお前のところに負けていない』と言われる」と苦笑いする。 今秋の神宮大会も1年生の本格派右腕、織田翔希に2安打完封を喫した。松坂と比べてどうかという問いに、馬淵監督は「まだ1年生だし、比べたらかわいそう」としながらも「もう少し足腰が強くなったら、伸びる可能性もあるし、良くなるかもしれない」と答えた。強敵の出現を楽しんでいるようだった。
地区大会を制した横浜、明徳とも来春の選抜大会出場は確実だ。横浜は公式戦15連勝で臨む。織田は松坂のように試合の風向きを変えられる投手になるか。明徳の「打倒・横浜」が実現するか。春の甲子園が楽しみだ。(鮫島敬三)