“女性のDV被害”や“シングルマザーの貧困”に関して国連が日本政府に勧告 「無視することは憲法違反になり得る」
憲法98条2項は「条約の誠実な遵守」を定めている
国連勧告に関する報道では「勧告に法的拘束力はない」と表現されることが多い。しかし、この表現は「一面は正しいが、ミスリーディング」であると石井弁護士は指摘する。憲法98条2項により「日本国が締結した条約及び確立された国際法規は、これを誠実に遵守することを必要とする」と定められているためだ。 「法的拘束力がないからと言って無視することは、憲法に定められた義務を果たさないため、憲法違反となり得る」(石井弁護士) 2013年6月、安倍内閣(当時)は、旧日本軍の慰安婦問題をめぐる国連人権機関の勧告に関して「法的拘束力はなく、締約国に従うことを義務づけているものではない」と閣議決定した。この閣議決定以降、慰安婦問題に限らず、国連からの勧告に対する日本政府の対応は消極的になったという。 国際人権法の専門家であり、イギリスのエセックス大学・人権センターフェローの藤田早苗氏は「勧告に法的拘束力はないとしても、勧告の前提となっている条約には拘束力がある」と指摘し、日本政府の対応を批判した。 「勧告だから従わなくてよい、なんてズレた対応をしているのは日本政府だけ。 イギリスでは政府がどのような勧告を受けてどのような対応をしているか、BBC(英国放送協会)などのマスコミが詳しく報道する。日本のマスコミは、政府の言い分を『コピペ』するだけの報道を、いい加減に止めてほしい」(藤田氏)
「国内人権機関の設置や司法予算の拡大が必要」
弁護士らは「シングルマザーにとっては、物価が高く費用のかかるジュネーブに訴えに行くこと自体が難しい」と指摘し、国内の事情を国連に伝えやすくするために国内人権機関が必要であると訴えた。 「日本におけるシングルマザーの問題について、過去に国連に訴えられたことはなかった。 国連に訴えに行ける人は、そもそもハイクラスである場合が多い。そのため、これまでは選択的夫婦別姓のような問題が主に取り上げられてきた、という面がある」(弁護士ら) また、勧告にも含まれている「ジェンダーに基づく暴力」については、現状では裁判官の理解が乏しい、と弁護士らは指摘する。司法修習所でジェンダーに関する研修が行われていないことも問題の一因であるという。 「そもそも裁判所の関係者が忙しく、時間が足りないことも問題の一因。共同親権を導入するというのであれば、国は司法予算を増やし、裁判所がジェンダーの問題を理解できるようにするべきだ」(弁護士ら)
弁護士JP編集部