“女性のDV被害”や“シングルマザーの貧困”に関して国連が日本政府に勧告 「無視することは憲法違反になり得る」
10月、スイス・ジュネーブの国連欧州本部で国連女性差別撤廃委員会(CEDAW)による8年ぶりの日本政府審査が行われた。既存の報道では「男系男子による皇位継承を定めた皇室典範の改正」や「選択的夫婦別姓」に関する勧告が注目を集めているが、実は「女性の受けているDV被害への対処」や「シングルマザーの支援」に関する勧告も出されている。
弁護士団体が国連委員に問題を訴え
11月1日、CEDAWにレポートを提出し、実際にジュネーブまで渡航して会議に参加した、「DV虐待を許さない弁護士と当事者の会」の石井真紀子弁護士らが会見を行った。 同会は、「日本の家庭裁判所はDVや虐待があっても親子の面会を強制してきた」「裁判所がDVや虐待を見抜けず適切な判断ができないことが事態を深刻化させ、調停などの手続きも被害者の加害となり得る」との主張を行っている。 2026年までに導入が予定されている共同親権制度についても「DV被害者が受けている状態を悪化させる」との見方をしている。 また、同会は、離婚に関連する女性の問題として「母子世帯(シングルマザー世帯)の貧困」があるとも指摘している。 貧困の原因としては、母子世帯の約70%が養育費を受け取っていないこと、離婚の90%は協議離婚で成立するために結婚生活から抜け出したい一心で養育費や十分な財産分与を放棄する女性がいると考えられること。そして、男女間の賃金格差が大きいため女性が一生懸命働いても貧困から抜け出すのが困難なことなどがあるという。 10月14日、CEDAWは日本のNGOや市民団体に対する聞き取りを実施。「DV虐待を許さない弁護士と当事者の会」のメンバーらは委員に上記の主張を訴え、日本政府に対する勧告を求めた。
平等な財産分与、裁判官の能力開発などに関する勧告が出される
CEDAWは10月17日に審査を開催。10月29日、日本における女性の人権状況についての懸念や改善のための日本政府に対する勧告を含む、「最終見解」を公表。 「DV虐待を許さない弁護士と当事者の会」が訴えた問題に関しても、以下のような懸念と勧告が含まれていた。 【懸念】 ・民法の規定が遵守されていない結果、女性にとって資産の管理や離婚手続きにおける財産の平等な分割が困難になっている ・現在の協議離婚制度の下では、父親が虐待的である場合にも子どもとの面会が優先され、子どもと母親の両方の安全を損なう可能性がある ・シングルマザーが直面する社会経済的な課題や性差別について、政策が適切に対処できていない 【勧告】 ・離婚手続きにおいて平等な財産分与を可能にするため、民法の規定の遵守を確保する措置をとること ・離婚を求める女性に安価に法的助言を提供すること。また、裁判官と家庭調査官が子どもの親権と面会を決定する際、ジェンダーに基づく暴力を十分に考慮するよう能力開発を強化/拡大すること ・シングルマザー支援のため、十分な数の安価な保育施設の提供や、職業生活と家庭生活の両立を促進する的を絞った措置の採用、シングルマザーをめぐる性差別的な固定観念をなくすこと 会見に参加した弁護士のひとりは「非常に有用な、家裁実務にも使っていける勧告が得られた」と所感を述べた。