綾瀬はるかの目の奧に〝宇宙〟が見えた 「ルート29」森井勇佑監督「彼女でなければならなかった」
森井勇佑監督の「ルート29」は、孤独を抱える女性と不思議な雰囲気をまとった少女の2人が、兵庫・姫路から鳥取に至る国道29号を旅する物語だ。緑深い森、神秘的な湖――。日本の原風景を思わせる自然が、世間に居場所のない2人をはじめ、登場人物の繊細な心の動きと呼応するように映し出される。森井監督はデビュー作「こちらあみ子」に続くこの作品を、「現実とファンタジーが入り交じった、現代のおとぎ話」と表現する。 【写真】第37回東京国際映画祭のレッドカーペットに登場した「ルート29」の(左から)大沢一菜、綾瀬はるか、森井勇佑監督
詩と映画に親和性「理屈でないものを描く」
原作は鳥取出身の詩人、中尾太一の詩集「ルート29、解放」だ。森井監督は読んだ瞬間、「これはきっと、映画になる」と直感した。「ザワザワした世界に一本道がずっと続いていて、そこを誰かが歩いている」とのイメージが浮かんだ。「ロジカルではなく、理屈では語れないものを描こうとする」。詩と映画には以前から親和性を感じていた。湧いた霊感に動かされ、森井監督は約1カ月にわたり、国道29号を旅して脚本を書き上げた。 鳥取で清掃員として働くのり子(綾瀬はるか)は、仕事で訪れた病院で、精神科病棟の患者、理映子(市川実日子)から姫路にいる娘のハル(大沢一菜)を連れてきてほしいと頼まれる。姫路に向かったのり子は、写真を手がかりに見つけることのできたハルと共に鳥取へ向かう。
好き勝手で自由に生きる人たち
夜中に犬を探す赤い服の女、社会を離れて森に暮らす親子、湖に消えていく老人――。実在を疑ってしまうような不思議な人たちと、2人は出会う。「出てくる人物が好き勝手、自由に生きているようにしたかった。ただぽつんと立っているだけでもよい。その自然な姿が大切だった」と森井監督は言う。 他者との関わりが苦手で、淡々と生活を送っているのり子が、見ず知らずの理映子の願いを聞き入れたのはなぜだろうか。森井監督は「宇宙」という言葉で説明する。「のり子の中には、大きな宇宙がある。豊かな心を持っている人なんです。彼女が旅をするのは、自分の宇宙に従っただけ」。撮影をする中で、綾瀬の持つ存在感の大きさ、特に目が印象的だったという。「目の前を見ながら、実はもっと『奥』を見ている。その目を見て、のり子と同じような宇宙を持っている方だと思いました。のり子は綾瀬さんでないと演じられなかった」 森井監督は同じく、大沢の中にも大きな宇宙を見いだした。ハル役は当て書きだった。特に事前に説明したり指導したりせず、「空っぽの状態」で演技をしてもらうことが多かったという。「ホテルの一室でのり子といる場面。特に大切なシーンでしたが、『ひとりぼっちで宇宙にいると思って』と、抽象的なことしか言いませんでした。それでも、ハルの気持ちを出してくれた」と振り返る。顔を大写しした際には「これほど深みが出ているのか」と驚いた。「形容できない表情を見せてくれた。とんでもない俳優だと思います」と称賛する。