「夜ヒット」超人気司会者・前田武彦は“バンザイ事件”でなぜ、テレビから消えたのか 本人が亡くなる前に語っていた本音「悔やんでいる。でもね、真実とは違った」
「共産党バンザイ」とは言っていない
前田はこう振り返る。 「ボクもあの事件が原因だったと思います。番組で『バンザイ』と叫んだのも、共産党候補を応援したのも事実。でも、応援については、頼まれたから引き受けただけです。現場には松本清張さんや作曲家のいずみたくさんもいたし、特殊な雰囲気ではなかった。……それにしても局の対応は厳しかった。上層部としては、『マエタケを自由にさせ過ぎた』ということだったのでしょう」 ただ、多数の週刊誌などの見出しに明記されたような「共産党バンザイ」とは言っていない、と繰り返し主張した。 「それはありえないですよ。番組で党名なんて言ったら、絶対に問題になるに決まってるじゃないですか」 確かに、当時の各報道を見ても、記事の本文に、「放送中に共産党バンザイと叫んだ」と記述している例は見当たらない。 それでも、選挙応援、番組でのバンザイ、ともに公の場で堂々とやった行為だった。「前田は、共産党シンパとしてテレビでバンザイをした」といった具合に、結び付けられるのは時間の問題だったはずである。
反体制の人間ではありました
番組降板後も、革新系政党からの参院選出馬が取り沙汰されたり、業界内に「あの前田武彦が王侯貴族の暮らしをしてふんぞりかえっている」などとする怪文書が出回ったりして、身辺の慌ただしさは続いた。保革対立の激しい時代、「左寄り有名タレント」と見られてしまった前田には、政治的な風当たりも強まったのだろうか。 「ボクはもともと反体制の人間ではありました。もちろん共産主義者ではなくて、『時の権力に反対する』というスタンスなんです。共産党が政権をとったら、真っ先に反共産党になります。でも結局、この反体制という部分が、芸能マスコミやある種の『反マエタケ』勢力からすれば、面白くなかったんでしょうね。『体制内で甘い汁を吸っているくせに』というわけです」 冷静かつ率直に降板劇の裏事情を分析してみせた後、こんな言葉も口にした。 「例えば、司会者としてはこれも言っちゃまずいのかもしれないが、『巨人バンザイ』だったら、降板騒動にならなかったと思う。『自民党バンザイ』であっても、ボクのようなことにはならなかったはずです。もう少し、政治的な中立性を考慮すればよかったんでしょう。ただ、反体制はお笑いの源でもある。時代に阿るよりは、よっぽど良かったと思っています」