「夜ヒット」超人気司会者・前田武彦は“バンザイ事件”でなぜ、テレビから消えたのか 本人が亡くなる前に語っていた本音「悔やんでいる。でもね、真実とは違った」
両手を高々と挙げて「バンザーイ!」
“事件”が起きたのは、「夜ヒット」の放送終了直前のことだった。エンディングテーマが流れる中、前田が突如、カメラに向かい、両手を高々と二度ほど挙げて、「バンザーイ!」と叫んだのである。近くには「鶴岡雅義と東京ロマンチカ」のボーカル三条正人らがいた。 番組担当ディレクターの藤森吉之は、当時のマスコミ取材に対し、次のように説明している。 「前田さんが“バンザイ!”をいったのは知っています。東京ロマンチカの三条さんも、いっしょに手をあげていたみたいですよ。ただ、コマーシャルのことなどで、私も、それほど注意してはいなかったんですよ。なんのための“バンザイ”かわからなかったし、またいつもの調子でサービスしたのかな、と思っていたんです」(「女性セブン」48年7月11日号) 番組中に「バンザイ」と叫ぶだけならば、どうということはない。だが、このたかだか数秒程度の「サービス」こそが、順風満帆だった前田のテレビ人生に、暗雲をもたらしたのである。
“バンザイ事件”の結果は辛い宣告
伏線となったのは、2日前の6月16日、前田がとった行動だった。大阪に向かった前田は、参議院議員補欠選挙の最中だった共産党候補者・沓脱タケ子の選挙カーに乗り込んだ。繁華街や住宅地を回り、候補者や聴衆に対し、大声でこのように語りかけたとされる。 「私は選挙速報を見るのが好きです。支持している候補が当選したときには、涙を流して喜びます。月曜日の生放送では、選挙についてなにかいいますから、見ていてください」(「女性セブン」48年7月11日号) 果たせるかな、沓脱候補は首尾よく当選した。前田は約束したとおり、月曜日の「夜ヒット」で、「共産党バンザイ」とも受け取れるリアクションを起こしたというわけだ。“バンザイ事件”は、間もなくマスコミの格好の話題となり、世間を騒がせることになった。 やがて、前田に辛い宣告が下される。5年間、中心を担ってきた番組から降ろされたのだ。同年9月24日の放送を最後に、「マエタケの夜ヒット」はあっさりと幕を下したのである。 理由について、フジテレビ側は「マンネリ化もあり、最近は視聴率が15~20%と低迷していた」とし、「新メンバーによるてこ入れ」を強調したが、誰もがあの事件との関係を疑ったのは言うまでもない。上層部で問題になり、「前田降ろし」に繋がったというのである。