元NHK→独立L監督→西武職員 “異色”の男が進める若手改革…負けてもインタビュー行うわけ
1軍と2軍の選手では異なった“言語化能力”
伊藤さん自身、初めての春季キャンプでA班に帯同した際に気付きがあった。 「1軍経験のない若手選手は『今のどうですか?』のように抽象的に質問するケースが多く、1軍の選手は『今、自分の右肩がこうなっていて、こういう感覚なんですがどうですか?』という聞き方をします。やっぱり言語化能力が高いと、それだけコーチもアドバイスしやすくなる。技術の部分は本人にしかわからない部分もたくさんあるので、自分の感覚をしっかり言葉に出せることで、コーチは適切な指導ができ、その選手が成長していく起点になると思います」 これら言語化能力と並行して、主体性を身につけることの大切さも伊藤さんは説く。 「日々の会話もそうですが、ミーティング形式、講義形式で、マインドセットというその人自身の思考の設定や癖を勉強する機会を設けています。私個人の考えですが、いくら良い情報、指導を得られても、その選手本人がその気にならないと成長していけないので、取り組む姿勢など、グラウンド内で見えるのであればそれを指導していきます。ウオーミングアップひとつにしても、単に体を温めるだけの選手もいますが、実は大事な意味があって、体を動かしていくと、苦手な股関節の動きが悪いとか、膝の動きが悪いとかを自分で把握できる。考え方ひとつで成長できるきっかけはたくさん転がっているので、選手にはそれを掴んでほしいですね」 言語化能力と主体性の両輪を身に付けること。それらを日々の生活で習慣化するために、若獅子リフレクションの実施以前から、ファームの選手・コーチ・育成担当間で“きょうのリフレクション”を共有するシステムをつくった。
スタッフを驚かせたドラ6の進化…“村田論文”と呼ばれるほどに
「昨年から1~2年目の選手を対象に、練習記録として、今日よかったところ(Good)、悪かったところ(Bad)、次どうしていきたいか(Next)。頭文字をとって『GBN』と呼んでいるのですが、それを毎日書いてもらっています」 選手は試合や練習があったその日のうちにアプリで目標とGBNを書き込み、それらをスタッフとコーチの間で共有。書き込みに関してコーチや育成担当からその日じゅうにフィードバックが書き込まれる。まるで交換日記だ。選手は次回の練習時に課題感を持って取り組め、スタッフやコーチからは選手の状態の把握ができることと、認識のズレがあった場合にすみやかに方向修正が叶えられるという利点がある。 このアプリへの書き込みで、伊藤さんたちを驚かせている選手がいる。スケールの大きさで注目されるドラフト6位ルーキー、村田怜音内野手だ。5月10日のイースタンの試合のリフレクションで、1軍昇格直前に書いたものだというスクリーンショットを見せてもらった(本人了承済み)。 “村田論文”と伊藤さんも言うように、言語化の量が圧倒的だ。1打席ごとの狙いと結果や、守備の反省点、身体感覚が事細かに書かれている。入団直後の春季キャンプ時のリフレクションを見せてもらうと、わずか数行で空欄もあり、書くことが思い浮かばず苦慮している様子がうかがえた。それがいまや伊藤さんたちも「読むのが大変」と苦笑するほど、論文並みに長いレポートに変わった。 リフレクションは1?2年目の選手を対象としているため、全員分を読んで返信していくのは伊藤さんたちにとっても骨が折れる。だが、「そういった(しっかり書き記せる)選手が増えていくことこそが、人財開発担当の目標のひとつでもあるので、うれしく思っています」と、選手の文量に対して熱量で応えていくつもりだ。