インタビューに応じた中井卓大（撮影・高橋智行）

　天才少年「ピピ」と呼ばれ、幼少期から注目を浴びてきたMF中井卓大（20）がスペイン3部リーグで武者修行を続けている。レアル・マドリードから今季、バスク州を拠点とする3部アモレビエタに加入。昨季のラヨ・マハダオンダに続く2年連続の期限付き移籍でマドリードを離れ、監督の信頼を勝ち取り、開幕から8試合連続で先発出場している。プロキャリア3年目にしてレギュラーの座を確固たるものにしている中井がインタビューに応じ、自身の現状や未来について語った。【取材＝高橋智行通信員、構成＝佐藤隆志】 【写真】Ｒマドリード下部組織に所属していた14歳当時の中井 　　　　◇　　　◇　　　◇ 　キリッと引き締まった表情が、スペインでの成長を物語っている。中井はRマドリードの下部組織で「8番」「10番」が定位置だったが、今は「6番」で攻撃陣を後方から動かす。8番とは攻撃的なインサイドハーフ、10番は1トップのシャドー（トップ下）。そして6番はボランチだ。 　「ボールをどれだけ失わずチームを動かせるか、というところが大事になる。監督からも6番で失わずチームを左右に動かして、ゲームメーカーになってほしいとは言われました」 　加入を決めた理由はフレン・ゲレーロ監督から直接連絡をもらったこと。息子のフレン・ジョン・ゲレーロ（アモレビエタ所属）とはRマドリードのアカデミーで3～4年、一緒にプレーしていた。 　「Rマドリードが『もう1年契約を更新してレンタルで出したい』と言ってくれたので、何も考えず、代理人に『このチーム行きたい』って話して、すぐ決まりました」 　昨季はラヨ・マハダオンダに所属したが、リーグ戦19試合に出場も途中出場が多かった。しかし今季は開幕から8試合連続のスタメン。課題だった守備が改善され、出番が増えている。参考にしているのは「脳で考えるプレーヤー」のロドリ（マンチェスター・シティー）やブスケツ（インテル・マイアミ）だ。 　「（守備面は）強くいくよりかは、もっと考えて、どこにボールが落ちてくるかという場所とか。ガンッて強くいくんじゃなくて、どれだけ賢くセカンドボールを取れるか、というところをしっかり考えながらやっています」 　Rマドリードとの契約が来季で満了となるだけに、今季は結果が求められるところだが、チームは1勝2分け5敗で20チーム中19位と苦戦している。 　「けがしないようしっかりケアして、たくさん試合に出て勝利に貢献したい。来シーズンは契約が残っている以上、Rマドリードに戻ってトップチームデビューできるなら、もうそれ以上いいことは人生でない。どうなるか分からないですけど2部や1部にもステップアップできたら」 　アモレビエタでの生活を満喫する。「バスク地方の人は、みんなめっちゃ優しくいい人たちばかり。もちろんご飯もおいしい。不便もない」。普段は家で過ごすことが多いのだという。「僕は家から出るタイプじゃない。スペイン語で『カセロ（出無精）』っていうぐらい、家にいるのが大好き。ずっとネットフリックスやYouTubeを見たり」。一方で、料理は毎日作る。バランスのいい、鶏肉や魚がメイン。試合翌日は豚肉の油を取って食べるなど体調管理に配慮している。 　世代別の日本代表経験があるが“代表”はあまり意識していない。 　「もちろん入りたい気持ちはありますけど、自分が集中しないといけないことは、今いるアモレビエタでしっかり活躍して試合に出ること。だから焦りは感じない。サッカー人生がどうあるか、やと思っている。それは本当にいつも大事にしている。どうあるかを考えているからこそ、試合に出られてない時も続けられるし、継続できるなという部分は自分ではあります」 　バルセロナ下部組織出身のDF高橋仁胡はC大阪へと移籍したが、他人の動向も気にならない。 　「自分は自分やし、自分の人生やし、ライバルは自分やな、と思ってる。自分は自分の道があるから、その人生をちょっとずつ『ポコ・ア・ポコ（少しずつ）』。ちょっとずつ1歩ずつっていうのが、僕の人生。小さい時からそうなので。ガッて上がっていくタイプじゃなくて、いつもこう。スペイン語で『メノス・ア・マス』。マイナスからプラスに、を意識している」 　そこにあるのはサッカーができることへの喜びだ。 　「みんながみんなサッカーができるわけじゃない。それもあって絶対に諦めないし、めげずに感謝して、これからも頑張っていきたい。サッカーが大好き。継続できる理由はサッカーが大好きだからです」 　泣き虫だった幼少期からの真っすぐな心で、自らの道を着々と歩んでいく。 　◆中井卓大（なかい・たくひろ）2003年（平15）10月24日生まれ、滋賀県大津市出身。アスール滋賀でプレーし、卓越したボールテクニックの動画が話題に。愛称「ピピ」は、幼い頃、思った通りのプレーができずピーピー泣いていたため「ピピ」と呼ばれるようになった。スペインに渡っても「PIPI」と呼ばれる。10歳にしてRマドリードのカンテラ（下部組織）入団。フベニールB（17歳）フベニールA（19歳以下）と順調に昇格し、22－23年はリザーブチームのRマドリード・カスティージャでプレー。昨季は3部のラーヨ・マハダオンダへ、今季はアモレビエタへレンタル移籍。世代別では18年にU－15代表、22年にU－19代表入りしている。182センチ、78キロ。利き足は右。