「大学大倒産時代」の著者に聞く━━大学無償化は本当に必要?
衆院選の争点として、教育無償化が急浮上している。しかし、大学などの高等教育に対しては「質の低下が懸念される」「自己投資の側面が大きい高等教育の費用を税金で賄うのは公平性に欠ける」などの反対意見も聞かれる。全国の私大のうち4割が、赤字経営とも言われる状況の中、大学無償化は必要なのか。8月下旬に「大学大倒産時代」(朝日新書)を刊行し、延べ300校の大学を直接取材してきた教育ジャーナリストの木村誠さん(73)に聞いた。 ----------
教育無償化は大学を救うことにはならない
━━「大学大倒産時代」では、18歳人口の減少により、大学進学率が現在の52%のまま推移すれば14年後には10万人の受験生が減ることになり、入学定員1000人規模の中堅大学が100校消滅する計算になる、としています。大学無償化を行えばそういった大学を救済することにつながるでしょうか ならないと思います。大学無償化は一時的なカンフル注射になると思いますが、長期的に見たら、却って大学を窮地に追いやる可能性もあるのです。私立高校では実際に授業料の無償化によって、運営難になる学校法人が出てきています。私立高校はこれまで授業料を自由に設定できました。しかし、公的に補填されることによって、経営の自由度が下がっている。ある程度規制されるようになったため、授業料の値上げも簡単にはできないし、付属の大学の運営に費用を回すといったことも難しくなりました。ですので、高校主体の学校法人が運営する大学に悪影響がでています。 無償化によって、私立大学でも同じことが起こると見ています。公的な補填の割合が高まるほど、国公立大並みの教育水準に達しているか問われることになりますが、地方の私立大学は地方の国立大と比べればどうしても見劣りします。経営の自由度も下がって運営が厳しくなるのではないでしょうか。 文部科学省が、国公私立の枠組みを超えての大学再編といったことを検討しているようですが、統合や連携がしやすくなるためにも、自校の魅力を高めるなど、大学は自主努力をさらに重ねるべきなのです。国が大学の自助努力を支えることをしないで、教育無償化を行えば、砂漠に水をまいているようなことになりかねません。