「大学大倒産時代」の著者に聞く━━大学無償化は本当に必要?
大学に危機意識なく
━━大学側からは危機感を感じていますか 私学法人の経営者に会っているとあまり危機感がないのです。特に東京だと、ほかの大学がつぶれれば、学生はこちらに来るだろうと思っています。今を何とか乗り切れば大丈夫と考えているようです。 定員割れ自体を隠している大学もあります。公表されているよりも本来はもっと定員割れは多いはずなのです。そのギャップは何かというと、定員割れを起こしていた大学が、定員自体を減らしてそれほど定員割れしてないように見せかけるということが行われています。 教育内容が大学と呼ぶのにふさわしくないところも多いです。「短大を大学にした」、という大学によく見られるのが、次のような傾向です。職業上のスキルや知識は得られても、幅広い教養や、研究に基づいた課題発見能力が身につかなかったりします。このような大都市圏の大学については、教育内容が変わらない限り、淘汰されるべきでしょう。
地方の大学はなくしてはいけない
━━運営が成り立たない大学については、たとえ大学が少ない地域でも淘汰されるべきでしょうか 文部科学省は今、国立大学の文系の改編・縮小方針を打ち出しているため、地方で文系への進学を希望している受験生の受け皿がなくなりつつあります。その上、私立大学がなくなれば、地方の文系希望者は東京や大阪に出て行くしかなく、それでは地方創生とは逆行します。地方の大学は定員割れでもなるべく存続できるよう、大都市圏とは違った対策を取るべきだ、というのが私の持論です。教育内容を変える必要はもちろんありますが、その学ぶ「場」自体をなくしてはいけないと思っていますね。 地方活性化のためのアイディアを出したり、起業したり、といったノウハウは理系の学部よりも経済学部といった文系学部の方が得意だったりします。国が本当に地方活性化を進めたいなら、今の文系軽視の姿勢を、特に地方では改めるべきです。 ━━本の中では、まず地方の中堅私立大学が倒産の危機に直面し、その後都市部の私大下位校にも連鎖する、国立大学であったとしても安泰ではないと指摘しています。無償化ではない方法で、大学は今後どのように生き残りを図るべきでしょうか 今大都市圏の大規模な総合私立大学では、志願者をとにかく集めるといった方法を取っているところも多くあります。近畿大学、法政大学、明治大学など大都市圏の主要私立大学23校の志願者の合計は2016年で約149万人もおり、私大総志願者の4割を占めています。インターネット出願で併願がしやすくなったり、全学部統一入試といって1回の試験でいくつもの学部が受けられるようになったり、センター試験利用を大幅に導入したりしたことが背景にあると考えられます。しかし、このような闇雲な志願者拡大路線は、18歳人口が減少する中では行き詰まるのも時間の問題だと思います。 こういった小手先の手法で志願者を集めるのではなく、学生の積極的な姿勢を生むアクティブラーニングを取り入れたり、高校生の進路意識に合った教育内容に変えたり、地域活性化で具体的に成果を出したりして、大学自体の魅力を高めることが必要です。こういった努力をすでに行っている大学も多く、10年前と比べて国からの競争的資金の獲得が増えている大学の中には、有名校ではない大学も見られるのです。学生離れが指摘される女子大であっても、女性のキャリアということに特化した教育内容や進路指導は、共学の総合大学と比較した場合、優位性があると思います。 大学全体は先細りだとしても、危機意識を持ち、大学の持つ特性や地域性を生かして、存続の努力を続けていくことが、大学が生き残り、勝ち抜いていく上で最も大切なことだと思います。 ---------- 【きむら・まこと】1944年、神奈川県生まれ。教育ジャーナリスト。早稲田大学政治経済学部卒業後、学習研究社に入社。「大学進学ジャーナル」編集長を務める。現在も「学研進学情報」などで活躍。著書に「危ない私立大学 残る私立大学」(朝日新書)など。