【あなたの知らないEV/MG】名門スポーツカーブランドの威光は中国製になっても衰えず
高い品質と性能で「MG」ブランドを最大化する商品戦略
欧州市場でも中国製EVがそのプレゼンスを増している。その中でも異色の存在であり、かつ人気を集めているのがかつて英国のスポーツカーブランドだった「MG(Morris Garage)」だ。現在は中国の上気汽車集団(SAIC)の一員であり、欧州向けMG車は全車が中国国内で設計・製造されている。 【写真】MG4以外にもまだある、ラインナップを詳しく見る 「MG(Morris Garage)」は1920年代に英国で誕生したスポーツカーメーカーだった。しかし2005年にオーナー企業が倒産、中国の南京汽車に買収されるも、のちに中国最大の自動車メーカーである上海汽車(SAIC)に再び買収されるなど波乱の歴史をたどりながら、2019年に欧州に再上陸。現在に至っている。 MGを特徴づけているのは、そのブランド戦略である。中国国内ではエンジン車とEVを生産しているが、欧州向けはEVとPHEVに絞り、とくにEVに注力。ロンドンにデザイン拠点を設けるなど、欧州ローカライズを戦略の柱にすえている。 現地で根強かった中国製品への不安を払拭する高品質なクルマの作り込み、そして「MG」ブランドへの信頼感を活かしたマーケティング戦略など、他の中国ブランドではハードルが高い市場に短期間で食い込むことに成功した。いまや英国EV市場では、テスラに次ぐ販売シェアを達成している(2023年度上半期)。中国国内でBYDやNIOなどの大手と比べ、その存在感が希薄なのとは対照的である。
多彩なモデルバリエーションと絶妙な価格設定
人気を牽引しているのは、2022年9月に発売されたCセグメントハッチバックの「MG4 EV(Electric)」と2021年11月に発売されたBセグメントSUVの「MG ZS EV(Electric)」。なかでもMG4 EVは、伝統的に欧州地場メーカーが強いCセグメント市場で大成功をおさめ、豊富なモデルバリエーションも手伝ってヒット街道を驀進中だ。 MG4 EVのボディサイズは、全長4287×全幅1836×1504mm。ホイールベースは2705mmで、フォルクスワーゲンID.3とほぼ同じサイズ。駆動方式はRWDまたはAWDで、バッテリー容量は51kWh、64kWh、77kWhを設定している。 ラインナップを多数揃えており、ボトムレンジを支える「Standard(RWD)」から0→100km/h加速3.8秒を誇るハイパフォーマンスモデルの「XPOWER(AWD)」まで5車種を設定。航続距離は51kWhバッテリー搭載のStandardが350km(WTLP)、77kWh搭載の「Trophy Extended Range」では520km(同)を誇る。 英国での価格は2万6995ポンド(Standard:約487.3万円)~3万6495ポンド(658.8万円)。中国製品にありがちな安易な“安売り”をしなかったのも奏功したのだろう。最大のライバルであるフォルクスワーゲンID.3と同等の品質と性能を“微妙に安い”価格で提供することで、価格競争力を与えられている(それでも輸送コストや関税を考えると割安ではある)。2024年以降、欧州メーカーからも手ごろな価格帯のEVが続々登場する見込み。中国市場のような価格競争が起きるかも知れない。
ブランドのDNAであるスポーツカーも復活
MGは欧州だけでなく、今後はアジア/オセアニア諸国にも注力する戦略を発表しており、インド、タイ、マレーシアやシンガポールなどでシェアを伸ばしつつあるほか、オーストラリアにも進出している。 そして2024年には、MGブランドの生誕100周年を記念してそのDNAを継承したオープンスポーツカー「MGサイバースポーツ」の発売もスタートする。現行EVラインナップ(MG4、MG5、MG ZS、MG MARVEL R)にスポーツカーが加わり、さらにその先にはBセグメントコンパクトも加わる計画を発表済みだ。そのラインナップの立ち位置は中国メーカーというより、欧州ブランドに極めて近いと言えるだろう。