“枠”を超える者と、去る者と。 3人の識者が振り返る、2024年のバーチャル業界(中編)
今年も様々なニュースが飛び交ったバーチャルタレントシーン。新たなタレントが才能を見せつけたり、意外なプラットフォームが注目されたり、はたまた長年活躍してきたタレントが活動を終えたり……。出会いも別れも多かったこの一年。シーンを観測し続けるライターたちは、この一年の変化についてどう感じているのだろうか。 リアルサウンドテックでは3名の有識者ーー草野虹氏、たまごまご氏、浅田カズラ氏が語り合う座談会を企画。前編~中編ではおもにVTuberを中心とした「バーチャルタレント業界」について振り返った。後編ではソーシャルVRをはじめとするXR業界についての話題や、来年以降のバーチャルシーンの展望にまで話が及んだ。 中編ではシーン外へ飛び出して活躍するタレントや、知られることによる新たな懸念とVTuberの“その後”について話を聞いた(編集部)。 ■従来の枠を超えるVTuberたち 草野:星街すいせいさんが「アイドルVTuber」から「バーチャルアイドル」に肩書を変えた話もありましたね。これ、かなり大きなトピックだと思っていて。ホロライブファンの間でも大きな話題になりましたが、あのような肩書の変更が要求されるくらい、今年の星街すいせいはすごかったって話をしたいです。 たまごまご:「ビビデバ」が1億再生を超えていましたよね。 草野:1年経たずに1億再生を突破して、しぐれういさんの「粛聖!! ロリ神レクイエム☆」を超えそうなんですよね。あえて今年のMVPを決めるなら、彼女で決まりですね。 たまごまご:MVの作り方も含めて、ちゃんと売れるような設計をすごく考えるようになったな、と思います。花譜さんの「ゲシュタルト」もですが、こういうダンスを仕込んだらバズるだろう、みたいな。ホロライブもTikTokでのライブ配信を仕掛けてきてますし、そこに目を向けるのはさすがだなと思います。 ――TikTokでのヒットとしては、数年前のぼっちぼろまるさんやピーナッツくんも当てはまりますよね。彼らのTikTokでのヒットによって、VTuberシーンを飛び越えてヒットできる前例が複数あったというのもが大きいのかなと思いますが。 浅田:それこそ、ピーナッツくんはことしも『POP YOURS』でカマしましたからね。今年の「POP YOURS」出演者クリップの中にピーナッツくんの『Squeeze』パートがありますが、盛り上がりすごくてビックリしました。 草野:2年前の出演から2度目の出演でしたね。現地で見ていましたが、観客を盛り上げていて、めちゃロックしていましたよ。 浅田:あの姿のアーティストとして『POP YOURS』に受け入れられるのもすごいですよね。音楽に詳しい草野さんから見て、ヒップホップアーティストとしてのピーナッツくんはどのような位置にいると思いますか? すでに立ち位置を確立しているのか、それともまだ人気のアーティストというには遠いのか、気になっています。 草野:あえて言いますが、まだ遠いと思います。ただ、道はもう見えているので、どれだけヒット曲を出せるかでしょう。あと2~3曲ヒットを出せばヒップホップアーティストとしての立ち位置を確立すると思いますよ。 浅田:なるほど。とはいえ、「全くない」ではなくリーチはしていると。 たまごまご:いま思ったのですが、ルンルンさんの話題で「マスコット然としている」という表現がありましたが、それこそピーナッツくんは着ぐるみですよね。先取りしている。 草野:なんならにじさんじも着ぐるみを採用していて、『にじさんじフェス』で出歩いていますからね。 たまごまご:ホロライブにも「みこだにぇー」がいますね。 ――おめがシスターズも当てはまりますね。「顔だけ着ぐるみ」へと進んで、いよいよバーチャルな要素がなくなっちゃいましたが、この辺りはみなさんどう捉えていらっしゃるんでしょうか。 草野:そういったトライアルな取り組みがあったからこそ、「バーチャルって何だろう」といった議題が今年は出てきたのかなと思っています。おめがシスターズについても、ファンとのバスツアーが今年行われていて、お2人に接近できたんですよね。写真や動画も何枚か上がっていましたが、お二人がアイスクリームを取ろうとしているのを背後から撮っている映像もあって、とても面白い試みだったなと思いました。 浅田:それまで思考実験にしかなかったケースが、実例で出てきたのが2024年だったのかもしれませんね。 たまごまご:Adoさんの「手だけを出す握手会」や、ピーキーハイカーズの「限りなく生で会えるVTuberロボット」という試みも近い事例ですね。 浅田:その一方で、天鬼ぷるるさんは『VRChat』で握手会を開催していますね。 たまごまご:そうですね! VR握手会はアイデアとしても良かったですね。 草野:僕もVR握手会のような手法の方が、ファンは楽しめると思いますね。『VRChat』などでキャラクターのビジュアルを使った上で本人たちと会う方がいいですよね。 浅田:この領域に企業として目をつけているのがサンリオですね。来年の1月にサンリオキャラクターやVTuberと出会えるイベント『サンリオバーチャルグリーティング!!』を開催予定で、トップバッターとして因幡はねるさん、桃園りえるさんが参加予定です。実は今年の時点で『SHOW BY ROCK!! ましゅまいれっしゅ!!』キャラクターとのバーチャルグリーティングが開催されていて、かなり計画的に動いていると思います。 これらは今までの『SANRIO Virtual Festival』の延長線にある展開ではありますが、サンリオもいよいよVTuberを本格的に巻き込んでこの領域に挑もうとしているように思います。来年はVTuberとのふれあいの場としてのソーシャルVR活用事例がどのくらい増えるか、様子を見ていきたいところです。 たまごまご:それでいうと、ライブもやってほしいですね。そういえば宝鐘マリンさんは以前、『バーチャルキャスト』でグリーティングをされていましたよね。 草野:そうですね。傾向を見ていると、『VRChat』を使ったグリーティングは早ければ来年にもホロライブで実施されても不思議じゃないと思いますが……期待したいところです。 ■新規勢力が活躍した背景とは 草野:ここ数年は大きな事務所だけでなく、Mixstgirlsやミリプロ(Million Production)、すぺしゃりてなど、新規事務所・グループが独自のファンを獲得していますよね。 たまごまご:がんばっている気がしますね。コンスタントに活動してファンがついているように見えます。特にミリプロは大きいですよね。たしか、個人の方が立ち上げたのでしたっけ? 草野:そうですね。もともとイラストレーター出身の甘狼このみさんが個人で活動していたところから、グループを立ち上げて一人ずつメンバーを増やしています。甘狼このみさん自身、YouTubeなどで自身が絵を描いているショート動画をたくさんアップしたことで、幼稚園生や小学生からたくさんの人気を集めています。 たまごまご:個人から派生したプロダクションが増えて、それらが支持されている状況はすごく理想的ですね。 草野:それでいうと、今年は学術系VTuberも伸びていた印象です。先日、富士葵さんにインタビューをした際、「数年前はVTuberが配信をすると言えばゲームしかなかったが、いまはファン層も熟成し、タレントも多岐にわたってきたことで、本当に自分が好きなものを表現して、打ち出しても理解してくれるようになった」とおっしゃっていたのですが、まさにその通りだなと。このときには儒烏風亭らでんさんの名前も上がっていて、それも踏まえて学術系VTuberの立ち位置が確立してきたなと、今年一年で感じましたね。 それこそ、旅野そらさんのような方が受け入れられて、ちゃんとバズる状況って、すごく面白いなと思います。2017年や2018年だったらありえないじゃないですか。今のVTuberシーンの成熟と多彩さがあるからこそですよね。 たまごまご:直近は法律系でも、かなえ先生、ながのりょうさん、じゃこにゃーさんもかなりいい具合にファンを増やしていますね。特にかなえ先生の躍進が最近すごいですよね。 草野:かなえ先生は昼間の配信で法律や社会事象、最近では政治的な話題まで押さえた配信をされていて、4000人から5000人くらいの視聴者を集めているんですよね。これ、すごいなと思います。政治などのトピックを取り扱う時って、喋り口、ご本人の思想や姿勢も含めてものすごく注意しなきゃいけないのだけども、ちゃんとヒットしているのは、やはりシーンの成熟さと多彩さ、間口が広がったがゆえかなと感じます。 浅田:学術系に限らず、特化系のVTuberは年々存在感を増していますね。昨年自分は宇推くりあさんを挙げてそうした話をしていましたが、今年はさらに加速したような印象です。YouTube公式Xも、今年何回かヘアピンまみれさんをプッシュされていましたよね。 たまごまご:あと、学術系の方を取りまとめる人が出てきたことも大きいですね。北白川かかぽさんや、儒烏風亭らでんさん、カルロ・ピノさん、GAMABOOKSの諸星めぐるさんなどは、積極的に人を呼んで話を聞く企画を組んでいて、それをきっかけに関係値が横に広がっていくので、いい具合に“学術系コロニー”ができている感じがします。 草野:学術系ではないですが、hololive DEV_ISの「FLOW GLOW」からデビューした輪堂千速さんは、バイクとか車が好きなんですよね。彼女に関わる切り抜きが一時期ほぼほぼ車関係だったりして、そういう方がホロライブから普通に出てくるのは強いなと。 たまごまご:車・バイク系のVTuberは花香琴音さんなど個性が強い人がいっぱいいますよね。やっぱり領域として手堅いんでしょうか。 今まで、車とかを題材にしてるVTuberさんって、いるにはいたんですけど、他のVTuberファン層とは全くかぶらない、どちらかと言えばYouTuberとして見られてたと思うんですけど、儒烏風亭らでんさんあたりを境目に大手からも姿を現すようになりましたね。 浅田:アズマリムさんも、いまはバイク関連の動画を多く投稿していますよね。 草野:全員が全員、そういう色に染める必要性はないですが、特化したスペシャリストがいてもいいよね、とは思いますね。