『虎に翼』の“原作”は判決文? 「原爆裁判」と老いの問題の描き方に若干残ったモヤモヤ
“謝らない”優未(毎田暖乃)の是非
また、裁判の部分が創作しづらい分というわけではないだろうが、老いの問題が平行して描かれる。寅子は更年期障害の症状が出はじめ、百合(余貴美子)は老人性痴呆症の症状が出て、家族を振り回す。 あんなにきちっとしていて聡明だった百合の言動がおかしくなっていき、当人も周囲も困惑するばかり。のどか(尾碕真花)は仕事のストレスもあって、百合の世話を優未(毎田暖乃)やお手伝いさん任せで、優未がキレて蹴りを入れる。これは、どうやら毎田暖乃が『おちょやん』の幼少期を演じたときに父を蹴ったことのオマージュらしいとSNSでは推測されていた。「バカ!」と平手打ちだとあまりにありきたりで、キックのほうがインパクトはあるとはいえ、『おちょやん』の千代は蹴る必然性があったが、優未が蹴るのはいかがなものかという違和感はあった。しかも、蹴ったことを謝らないのだ。事情を聞いた遠藤(和田正人)が手や口を出したら、その責任をとらないといけないとやさしく諭したにもかかわらずである。 よねや轟はかつて自分たちも他者に手や足をあげたことがあって優未に語れることが何もない。寅子自身もかつて暴力的であった。なぜ、このドラマの登場人物たちは暴力を謝らないのだろう。もしかしたら、主人公側の人物たちにもある加害性や反省のなさのようなものを表現したいのであろうか。 『虎に翼』では主人公や主人公側の者であっても絶対正義ではなく、欠点がたくさんあることが初期からずっと描かれてきた。とはいえ、なぜ、未来を担う高校生に蹴りをさせ謝らないままにするのかはいささか解せない。このモヤモヤは、原爆裁判の判決にも感じるものである。国家が戦争で被害を受けた者たちに補償して然るべきではないかとチクリと言いつつ、法律では国家を勝訴させたことへのモヤモヤと共通するような気がしてならないのである。とはいえ、それを優未に担わせて良いものだろうか。この答えは残りの3週で明かされることはあるのだろうか。 参照 ※ https://news.yahoo.co.jp/expert/articles/9d6f887b5e1b2afb7cb716e9fb77344e05aaea8f
木俣冬