GRAPEVINE×betcover!! 異なる世界観で観客を圧倒させた、一夜限りの対バンライブをレポート
2024年9月12日(木)、EX THEATER ROPPONGIで、GRAPEVINEのライブイベント『MAGNIFIK GRAPEVINE×betcover!!』が行われた。 以前からGRAPEVINE(グレイプバイン)は、自分たちが注目する、主に後輩・新人のアクトを招いて対バン企画を行っており、これまでにSuchmos(サチモス)やSchroeder-Headz(シュローダーヘッズ)、中村佳穂等、多数のアーティストと共演してきた。あ、「主に」と付けたのは、先輩や同世代と共演するときもあるからです。今年7月6日に高知で行った、田島貴男(Original Love)との対バンのように。で、今年2024年は「ダブル・ヘッドライナー公演」として『MAGNIFIK』と銘打ち、5月1日に恵比寿ザ・ガーデンホールでHedigan’s(ヘディガンズ)と共演、このbetcover!!(ベットカバー)との対バンが2本目となる。 【全ての写真】GRAPEVINE×betcover!!のライブ写真(全14枚) というわけで、まず最初はbetcover!!のステージ......と書いて気がついたが、GRAPEVINEのファンだからこのレポを読み始めた、でもbetcover!! のことは知らない、という人もきっといらっしゃいますよね。なので、ちゃんと説明した方がいいですね。 betcover!! は、東京都調布市出身の柳瀬二郎という男のソロ・ユニット。2016年に、優勝すると『COUNTDOWN JAPAN』に出演できるコンテスト『RO69 JACK』に優勝、フェスに出演したのが、世に名を知られた最初だった。確か当時、まだ高校生だった記憶がある(調べたら、1999年生まれでした)。 その後、インディー・リリースを経て、2019年にcutting edgeからメジャーデビュー。2021年からインディーズに戻り、完全DIYでの活動を始める。 それまではひとり宅録ユニットだったのが、その2021年のアルバム『時間』から、レコーディングもライブも同じメンバーのバンド編成で行うようになる。ボーカル&ギター&フルートの柳瀬二郎に、ギター・ベース・ドラム・キーボードが加わった5人編成が最小で、そこにサックスが加わった6人編成が最大。ジム・オルークや石橋英子とのコラボレーション等で知られるギタリストの日高理樹をはじめ、全員が凄腕のプレイヤーである。 全員モノトーンのスーツ姿、柳瀬二郎を囲むようにステージの中央にギュッと固まったフォーメーションで、ライブを行っている。確か渋谷のO-WESTだったと思うが、ちょっと動いたらギターのヘッドが他のメンバーの頭を直撃しそうな密集状態で演奏しているのを、観たこともある。この日はそこまで極端ではなかったが、下北沢SHELTERのステージでも大丈夫な程度には、真ん中に密集していた。 恒例のSE、金井克子「他人の関係」(1973年のヒット曲)とともにステージに登場したbetcover!! (この日は5人編成)が、演奏したのは13曲。2023年リリースの『馬』収録の8曲はすべて演奏、その一作前の『卵』(2022年リリース)から3曲、その前の『時間』から2曲、という内訳だった。 13曲もやったのに、きっかり50分で終わったのは、ほとんどの曲と曲がシームレスにつながって、演奏されていくから。シームレスすぎて、オーディエンスが拍手をはさむ隙間もない。4曲目の「鉄に生まれたら」が終わって、5曲目の「母船」がドラムで始まる、そのほんの一瞬の間に、みんな慌てて拍手をねじこむ、というくらいの按配だった。 その「母船」のイントロに乗せてメンバー紹介をしたときと、ラストの「鏡」をやる前に、「ありがとうございました。じゃあ最後の曲やって終わります、サンキュー」と言ったとき以外は、MCもなし。で、そのライブ自体は......という以前に、「どういう感じの音楽なのか、読めば伝わるように言葉で説明しなさい、と命じられると困るチャート」の国内トップ3に入る存在が、現在のbetcover!! である。少なくとも、自分にとっては。 メロディの感じや、そのメロディに載せられる言葉の響き、あと衣装なんかも含むバンドの佇まいで言うと、昭和50年代頃の日本のポップ寄りなロックの感じ。自分が親しんできた音楽でいちばん近いのは『Reflections』の頃の寺尾聰だが、ただしAメロ→Bメロ→サビみたいな定形ではなく、本能の赴くまま自在に展開していく、みたいな曲構成である。 アレンジ面・サウンド面で言うと、そういう曲調に、USオルタナティブや音響系の要素も入ってきて、ブルースやジャズの匂いもして、シャンソンなんかの要素を感じさせる曲もあって......というふうに、ロックもロック以外も含めて、あらゆるジャンルを感じさせるのにそれらのうちのどれでもない。そんな、ダイナミズムに満ちたバンドサウンドと、それを悠々と乗りこなす柳瀬二郎の歌を生で浴びると、ただただ圧倒されてしまうのだった。 特にこの日は、EX THEATER ROPPONGIの音響システムのせいか、PAの腕がいいのか、僕が観ていた位置も関係あるのか、たぶん全部が理由だと思うが、出音自体もめったやたらと良くて、それがbetcover!! のすさまじさに、さらに拍車をかけていた。
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