年金受給額3年連続引き上げでも年金の価値は目減り 在職老齢年金の引き上げでメリットがあるのは「一部の裕福な高齢労働者だけ」、年金財政逼迫の懸念も
2024年11月25日、厚生労働省は、2025年度の公的年金の受給額上限の引き上げを発表した。受給額の引き上げは3年連続。だが、喜んでもいられない。
年金額には物価や賃金の上昇率以上に上がらないよう調整する「マクロ経済スライド」という仕組みがあり、これも3年連続で発動しているのだ。このため、年金額の引き上げ率は賃金の上昇幅と比べて「マイナス0.3%」になる見込みだ。「年金博士」ことブレイン社会保険労務士法人代表の北村庄吾さんが解説する。 「2023年から3年連続マクロ経済スライドが発動しており、2023年がマイナス0.3%、2024年がマイナス0.4%、そして2025年がマイナス0.3%と、結果的にこの3年間で年金は1%目減りしたことになります。 最近は特に物価の上昇率が激しいため、年金暮らしの人は物価上昇に追いつかない年金しかもらえず、苦しい生活を3年も強いられているということ。表向きの年金額は増えていますが、前年とは同じものが買えないほど年金の価値が落ち続けているというのが現状です」(北村さん・以下同)
在職老齢年金の改正の影響は
2025年の年金改革で大きな動きとなるのが、「在職老齢年金」の引き上げだ。 現在は「労働収入+年金収入」が50万円を超えた65才以上の労働者に対し、超えた金額の半額、または全額分の年金がカットされる仕組み。この「50万円の壁」を「62万円」または「71万円」に引き上げる方針が固まっている。
北村さんは「在職老齢年金の改正は、一部の裕福で元気な高齢者にしか関係がない」と語る。 「65才以上で在職老齢年金の対象になるほど稼いでいるのは、ごく一部の経営者や役員、専門職など、限られた人たち。一般的な収入を得ている人にとっては、メリットもデメリットもありません」 とはいえ、上限が引き上げられることで、高齢者が努力して稼いだ分は“稼ぎすぎ”として年金を取り上げつつ、“まだ稼げますよ”とばかりに、よりハードに働かせる向きになっているのは事実だ。 「年金改正は飴と鞭がつきものですが、鞭はほとんどの人にとって苦痛になるのに対し、飴を享受できる人はごくわずか。聞こえのいいことは一部の人にしか該当しないので、残念ながら、ほとんどの人にとって年金改正は常に改悪なのです」 一方で、働く高齢者への年金支給が増えることで年金財政がひっ迫するのも事実。厚生労働省の試算によれば、62万円に引き上げられた場合は1600億円、71万円なら2900億円もの財源が新たに必要になる。 「この財源をどう確保するかはいまだ詰めきれておらず、将来の年金受給額が下がる可能性もある。働き手を確保したいという目先の利益に走った短絡的な改正です」 有利なのは、高所得な高齢者だけ。在職老齢年金が引き上げられるからと無理に働き続けるのではなく、もらえる年金で豊かな老後をどう過ごすかを考える方がよさそうだ。 ※女性セブン2025年1月16・23日号