19センバツ星稜 第3部・チームの支え/4止 場和ませ、道中預かる /石川
<第91回選抜高校野球> ◇見守り22年、すっかり一員 運転手・川淵和幸さん(61) 金沢市内の学校から甲子園まで車なら約5時間かかる。星稜の選手、スタッフを運ぶのは、おなじみの赤いバス。北陸交通(白山市)運行部の川淵和幸さん(61)は、20年以上選手を見続けてきた「専属運転手」である。「今はじいちゃんと孫みたいなものです」。豪快に笑い飛ばす。 会社員生活を経て、29歳で運転手に転身。星稜を担当するようになったのは、同校が10回目の出場を決めた1997年のセンバツからだった。北陸交通はそれまでも星稜の遠征でバスを出していて、ベテランにさしかかった前任者に代わり、川淵さんに白羽の矢が立った。 当時の星稜は既に全国にその名をとどろかす強豪になっていた。「担当になって光栄なことだなと思いましたよ」。指揮を執っていた山下智茂監督(現名誉監督)の勝利にかける執念はすさまじかったという。選手を乗せたままバック(後退)はしない、4(死)や9(苦)が付いたナンバーのバスは使わない--。責任感を胸に、ハンドルを握った。 関西の不慣れな道を進んで行くにしても、プロには失敗は許されない。当初は前任者が運転に付き添った。「完璧主義だった」というその先輩には鍛えられ、今も感謝する。「(甲子園での練習会場は)毎回違いますから。初めての道は一緒に下見に行きましたね」。現在ではスマートフォンの地図で進路を確認できるが、道路の幅や形状をこまめに確認する習慣は決して変わらない。 20年以上も一緒にいれば、自然にチームスタッフとして溶け込んでいる。甲子園に行けば練習場で球を拾い、寝食も共にする。「高校生と食べるものも一緒だから、メタボですわ。でも、選手の活躍している姿を見ると楽しくなる」。下がりっぱなしの目尻から、充実感が見て取れる。 山下名誉監督の長男で、現在は部長を務める智将さん(37)も高校時代は川淵さん運転のバスに乗っていた1人。親しみを込め「ブチさん」と呼ぶ。「甲子園では緊張感が高まるが、ニコニコと『頑張れや』『体調はどうや』と声をかけてくれる。いてくれるだけで場が和むんです」。選手をリフレッシュさせるために宿舎近くで健康ランドを探してもらうなど、川淵さんに甘えることもしばしば。指導者になり、ありがたさがより身にしみるようになった。 今大会も甲子園行きを担当する予定だ。北陸交通の作間敏人・営業部次長は「出発したら、あとは川淵さんにお任せです」と全幅の信頼を寄せる。定年を迎えたが、再任用で勤務を続ける。川淵さんは後進の育成に気を配りつつ、「優勝するまでは頑張ろうかなと思う」。そう言って、また笑顔を見せた。【岩壁峻】=おわり(題字は星稜OB・真弓将さん)