英紙「野村元社員の強盗殺人未遂が日本の“どぶ板営業文化”を揺るがす」
2024年11月、野村証券の元社員が強盗殺人未遂などで起訴された事件に英紙が注目。こうした問題が起きた背景には、訪問販売を重視する日本独特の営業スタイルがあると指摘し、世界的には時代錯誤とみられるこの手法がいまだに主流である理由を探っている。 【画像】英紙「野村元社員の強盗殺人未遂が日本の“どぶ板営業文化”を揺るがす」 野村証券の企業文化の根底には、故・田淵義久の伝説が脈々と息づいている。 田淵は営業から、社長に上りつめた人物だ。1980年代のバブル期に日本最大の証券会社を率いたその経営手腕は、ウォール街をも震撼させた。 野村の新入社員は、若かりし頃の田淵が週に500軒以上を飛び込みで回り、毎週靴を1足履き潰していたという、いわゆるどぶ板営業のエピソードを聞かされる。 訪問営業は同社の大きな強みでもあるが、その評判を脅かす衝撃的な事件が起きた。2024年11月、広島支店の営業職だった元社員が、80代の顧客に対する強盗殺人未遂などの容疑で起訴されたのだ。この一件で、野村が長年かけて築いた信頼は大きく揺らいでいる。 同社の奥田健太郎社長は何とかこの事態を収拾しようと、12月3日に記者会見を開き、深々と頭を下げて陳謝した。さらに、信頼回復に向けた再発防止策を提示し、自分を含む経営幹部10人の報酬を一部返上すると表明した。 元社員は既に解雇されて裁判の開始を待つ身だが、この事件は日本中を不安に陥れている。
訪問販売が主流のワケ
今回の事件は、野村の経営基盤を揺るがしかねない。同社は国際的な投資銀行として成長を遂げたものの、ウェルス・マネジメント部門(個人・法人向け資産管理サービス)はいまなお収益の要であり、2024年7~9月期の収益4833億円のうち約25%を占める。 オンライン証券マネックスグループの専門役員であるイェスパー・コールは、「事業の根幹ともいえる部署の社員が引き起こした事件を、野村証券は重く受け止めている」と指摘する。マネックスグループもまた、デジタル資産運用の管理に力を入れる一方、国内の営業人員を拡充しているという。 日本の証券会社は長らく、清潔感のある若手営業を顧客の自宅に送り込んできた。彼らが投資についてかなり踏み込んだ相談に乗ることは、ごく当たり前だった。 田淵のエピソードは、その真偽はともかく、現在も拡大し続ける野村の営業部隊を鼓舞している。肩書こそ、ウェルス・マネジメントなどへと変わったが、オンライン取引やチャットによる相談が主流のいまも、彼らは昔ながらの方法で投資商品を売り込んでいる。 日本のこうした営業スタイルについて、コールは次のように述べる。 「日本以外では、訪問型の投資販売や資産管理者との対面相談は、時代錯誤だと評価されるかもしれません。しかし日本の富の大半を所有する高齢者のなかには、電話による相談にすら抵抗を感じる人も少なくありません。パソコンを使ったオンライン投資が、受け入れられるとは思いません」
David Keohane and Leo Lewis