パリ五輪が迫るフランス政府が絶対に見せたくない“不都合な真実”…スラム化した郊外団地問題で育った監督が晒す「移民政策の成れの果て」
日本における“移民排除”政策を描いた映画
では、足元の日本の移民政策を背景として描かれた映画はどうか。――スリランカ人女性ウィシュマさんが名古屋の入管施設内で死亡した問題を持ち出すまでもなく、日本では“性悪説”をベースとした入管による難民受け入れ拒否政策が今もまかり通っている。 『東京クルド』(2021)はトルコ国籍のクルド難民の二人の青年を追ったドキュメンタリー、そして『マイスモールランド』(2022)はやはり日本に暮らすクルド人の女子中学生を主人公とした劇映画だ。どちらも主人公たちの親や叔父などが入管施設に収容されてしまったことから起こる困難を描いていて、難民認定率がわずか1%に満たないという日本政府の政策の問題点を浮き彫りにしている。 日系ブラジル移民については、1989年の入管法改正で就労のための受け入れを開始したものの、彼らの場合も日本で生まれ育った子供たちには国籍がブラジルであるために義務教育すら保障されず、就職も難しく犯罪に走りやすいといった問題がある。『孤独なツバメたち』(2011)はそんな日系ブラジル人たちの二年半を追ったドキュメンタリーだ。 これらの作品群は、移民を受け入れているフランスや英国の抱える問題とはまた違った問題を考えるきっかけとなるだろう。 文/谷川建司
谷川建司
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