「北上フィーバー」香港から中国本土への買い物人気 物価高や進む「中国化」が背景か
【北京・伊藤完司】香港から中国本土への旅行客が急増し、香港経済に打撃を与えている。かつては本土から高級ブランドなどを買い求める人が香港に押し寄せていたが、様変わり。香港が中国南東部に位置することから「北上フィーバー」と呼ばれ、世界有数と言われる物価高が主な要因と指摘されている。 香港メディア「香港01」によると、2023年に香港から本土への旅行者数は延べ約5300万人。逆に香港を訪れた本土住民は半数の延べ約2650万人にとどまる。新型コロナウイルス禍の収束を受け、昨年2月から本土への旅行者が増えているという。 香港から一番近い広東省深圳までは約40キロ。鉄道で十数分程度のため、週末に買い物や食事に出かけるスタイルが定着している。香港在住の日系企業関係者は「香港は物価が高くてサービスがいまいちなレストランが目立つが、深圳は安くてサービスも良い。電車賃を払ってもお得だ」と話す。香港のガソリン価格は「世界一高い」とも言われ、車で深圳まで行き、給油して帰ってくる人も多い。 香港で民主化運動の取り締まりや言論弾圧が強化されて「中国化」が進んだことが影響しているとの指摘もある。 香港当局によると、本土から香港への旅行者数は19年まで年間4千万~5千万人台で推移していたが、民主派の弾圧やコロナ禍の影響で激減。現在もコロナ禍前の5~6割程度にしか回復していない。香港の20代男性は「香港にかつての自由な雰囲気が感じられなくなったので、物価が安い本土に人が流れているのではないか」と話した。 本土側に消費が流出した結果、香港では飲食店の閉店や中小企業の倒産が相次いでおり、当局は支援に乗り出している。