東日本台風5年 阿武隈川遊水地取得27% 福島県鏡石、矢吹、玉川 集団移転希望4割
福島県内に甚大な爪痕を残した2019(令和元)年10月の台風19号(東日本台風)の福島県上陸から12日で5年となる。国と県は11日、阿武隈川の治水対策事業の現状を公表した。鏡石、矢吹、玉川の3町村にまたがる遊水地は予定地約350ヘクタールのうち、27%の95・2ヘクタールで所有者と契約が済んだ。 国土交通省福島河川国道事務所と県の担当者が鏡石町健康福祉センターほがらかんで記者会見した。被害の大きかった阿武隈川流域で2028年度の完了に向け、進めている治水対策の進捗(しんちょく)状況を説明した。 遊水地整備には農地や宅地の移転が要る。移転対象者の約4割は国が用意する代替地への集団移転を望んでいる。代替地は鏡石町と玉川村に各2カ所あり、鏡石は区割りも決まり、玉川は調整中。11月には同事業で初の工事となる支川・鈴川(鏡石町)の付け替えに必要な橋の工事を始める。同月上旬には矢吹町の予定地で移転農家向けの「試験ほ場」整備に着手する。約2500平方メートルの水田2面でコシヒカリを植え、掘削後に耕作可能か確認する。
◇ ◇ 県によると、台風19号では県内で関連死8人を含む40人が犠牲となり、59人が重軽傷を負った。住宅被害は全壊1395棟、半壊1万1800棟、一部破損6933棟、床上浸水157棟、床下浸水284棟。公共施設や道路など、全県の広範囲に被害が及んだ。 ■家や田畑手放す決断苦渋 住民子孫、流域の安全願う 遊水地予定地の人々は流域の防災力を高めるため、長年親しんだわが家や田畑を手放す決断をしている。第1遊水地が計画されている鏡石町成田地区の住民でつくる「水害から居住地を守る成田地区推進協議会」副会長の高原芳昭さん(68)は「子や孫に同じ苦労をさせたくない。下流の人につらさを味わってほしくない」と事業への協力を決めた。 5年前の台風では濁流で自宅が漬かり、流れ込んだ泥水に浮かぶベッドの上などで一夜を耐えた。各地を襲う豪雨など自然災害の報道に触れるたび、当時の記憶がよみがえる。第1遊水地では用地の21%で契約が交わされ、転居の準備を始める人が出ている。「協力した誰もが良かったと思える遊水地にしてほしい」と強く願う。