西日本新聞　社説

　待ちに待った歓喜の輪が福岡、九州に広がった。プロ野球の福岡ソフトバンクホークスが4年ぶりにパ・リーグを制覇し、小久保裕紀監督が胴上げで宙を舞った。 　プロ野球の本拠地がある都市や地域は全国でも一握りしかない。夢を育み、喜びを分かち合える幸せを、優勝の感激とともにかみしめたい。 　序盤から首位を譲らず、2位に大差をつけたものの、平たんな道のりではなかった。 　打線の中軸である柳田悠岐外野手と近藤健介外野手が、けがで試合に出られなくなった。精神的支柱で最年長の和田毅投手も戦列を離れた。優勝目前の足踏みもあった。 　負傷者が相次ぐ中、ベテランや中堅の奮起はもちろん、新人を含む若手の活躍が頼もしかった。 　近藤外野手が負傷した今月16日の試合は、7月に育成選手から支配下登録された23歳の石塚綜一郎捕手が決勝点を挙げた。開幕直前に支配下登録を勝ち取った25歳の川村友斗外野手は22日にプロ初本塁打、優勝を決めた23日には適時打でチームを勢いづけた。 　就任1年目の小久保監督は開幕当初、選手に「おのおのがプロフェッショナルとして代えの利かない人材に、とだけ考えてやってほしい」と自覚を促した。5月末に柳田外野手が離脱した危機でも「穴を埋める必要はない」と伝えている。 　若手にチャンスを与えながら優勝へ導いた小久保監督、期待に応えた選手たちにプロ集団の神髄を見る思いだ。 　ライオンズが去った福岡にホークスが舞い降りて35年余りたった。負け続けた悔しさからの成長は、人口が160万人を超えた福岡市の発展とも重なる。 　家庭や学校、職場、飲食店でいつも話題に上がるホークスは、すっかり地域に溶け込み、私たちの日常に活力や潤いを与えてくれる。 　家族や仲間と観戦した試合、応援する選手の躍動は、その時代の記憶に彩りを添える。つらいときにホークスの応援歌「いざゆけ若鷹軍団」を口ずさみ、自らを鼓舞する人もいるだろう。 　優勝セールがにぎわっている。地域経済に大きな効果をもたらす存在でもある。 　球団運営は評価できる。球場のエンターテインメント化に努め、試合以外も楽しめる空間にした。シーズンオフには野球教室や被災地激励で選手が九州各地を訪れ、ファンとの結び付きを強くした。 　観客動員数が12球団でトップクラスなのもうなずける。2軍の試合にたくさんのファンが足を運ぶのは強みだ。 　リーグ優勝の先には、さらに大きな喜びがある。クライマックスシリーズ（CS）突破と日本一である。 　CSで対戦する可能性がある2位の日本ハムには連敗中で、負傷した選手の復帰も見通せない。この時期にやきもきするのも強い地元球団だからこそだ。