『光る君へ』柄本佑が道長として初めて見せた激情 “最高権力者”への片鱗も随所に
『光る君へ』(NHK総合)第5回「告白」。まひろ(吉高由里子)は思いがけず藤原道長(柄本佑)の素性を知る。道長が右大臣家の子息であること、そして6年前、母に手をかけた藤原道兼(玉置玲央)の弟であることを知り、まひろはショックを受けて寝込んでしまった。まひろが倒れたことを聞いた道長は、自らの身分を偽ったことを直接会って説明したいとまひろに文をしたためる。まひろと道長は、直秀(毎熊克哉)の導きで再会することになった。 【写真】今週もアクロバティックな活躍だった直秀(毎熊克哉) 道長はこれまであまり感情を昂らせることがなかった。怒るのが苦手だと話す道長はどこかのんびりとした空気をまとい、同僚である藤原公任(町田啓太)や藤原斉信(金田哲)が話す女性や出世の話題にも強い興味を示すことはなかった。しかし、まひろの話題となると話は別だ。 あからさまに表情を変えたり、感情を表に出したりすることはないが、道長がまひろを気にかけていることは十二分に伝わる。同僚たちが五節の舞で倒れた舞姫が藤原為時(岸谷五朗)の娘だと話すのを耳にした道長は思わず歩みを止めた。公任や斉信らと漢詩の研鑽に励んでいた時もどこか上の空だ。藤原行成(渡辺大知)はそのことに気づき、「お悩み事でもおありのような」と道長を気にかけた。行成の言葉を受け、道長はまひろに文をしたためる。 第3話で「俺のように字が下手で、歌も下手だと困るな」と呟いていた道長だが、雪がちらつく夜に文を書く道長は丁寧に丁寧に筆を運ぶ。まひろを思い浮かべるように顔をあげては、新たに紙を取り出して再び文に向かっている。その真剣さから、道長がまひろに特別な思いを抱いていることは明らかだ。 廃棄された屋敷で、まひろと道長は再会した。道長は身分を偽っていたことを謝る。しかしまひろは、自分が倒れたのは道長の素性を知ったからではないと話す。 「6年前、母はあなたの兄に殺されました。私の目の前で」 まひろが、道長の父・藤原兼家(段田安則)の禄を得ていた為時が道兼の罪に目をつむったと語るのを聞き、道長は愕然としていた。道長は二度「すまない」と言う。一度目は絞り出すような声で、二度目は「謝って済むような話ではない」と自省しながら。「兄は、そのようなことをする人ではないとは言わないの?」と問いかけるまひろに道長はこう応える。 「俺は、まひろの言うことを信じる」 道長がまひろから目を逸らさなかったことで、この言葉が本心であることがはっきりと分かる。まひろの悲痛な心を知り、一族の罪をも知った道長は、悔恨の念にかられるように目を瞑った。いつもは穏やかな道長が強い心苦しさや苦々しさを感じていることが伝わってくる。あの日、自分が道長に会うために駆け出さなければ、会いたいと思わなければ、母は殺されることはなかったのだとまひろは泣き崩れた。道長は泣きじゃくるまひろに寄り添うと、まひろの背にそっと手を添えた。 東三条殿に戻った道長は、道兼を問い詰める。「やはり見ておったか」という道兼の言葉に、6年前、血に塗れた姿で帰ってきた兄の姿を思い出す。すべてがつながった道長は怒りに震えていた。人を殺めたことを悪びれもしない道兼に、道長は激昂し、兄を殴り飛ばすが、道兼はお前のせいだと言う。道長は言葉が出なかった。 道兼への憤りだけでなく、まひろの心を切り裂くような出来事を引き起こしたのは自分なのかもしれないと思い詰めているようにも見える。道長を追い詰めたのは兄の態度だけではない。「お前が俺をいらだたせなかったら、あんなことは起きなかったんだ」という兄の言葉に絶句していると、道兼の罪をもみ消した父・兼家が笑い出す。 「道長に、このような熱き心があったとは知らなんだ。これなら、我が一族の行く末は安泰じゃ」 道長はまひろに一族の罪を詫びたが、自分もまた、権力を得て政治のトップに躍り出ようと画策する一族の息子なのだと痛感したのだろう。道長のゾッとしたような表情が心に残る。 父・兼家や一族のあり方に複雑な思いを向ける道長だが、道長の言動にはのちの最高権力者である片鱗が垣間見える。 物語序盤で、道長は兼家に、公任と斉信が花山天皇(本郷奏多)の志の高さを素晴らしいと讃えていることを話した。兼家から「おのれの考えはないのか」と問われた道長は「大事なのは、帝をお支えする者が誰かということではないかと」と答える。その言葉を聞いた兼家は、誇らしい面持ちで道長の考えを褒めた。 「我が一族は、帝をお支えする者たちの筆頭に立たねばならぬ」 「その道のために、お前の命もある。そのことを覚えておけ」 道長には兼家のような貪欲さはまだ見えてこないが、考え方の根幹は兄たちよりも父に似ている。道長とまひろの関係も気になるが、貴族社会をどこか達観した目で見つめている道長が最高権力者となっていく展開にも心惹かれる。
片山香帆