「悩める女性アスリートに救いの手~価値再認識とウェルビーイング~」
スポーツ界で華やかに活躍する女性たちでも実は、引退後のことを考えると不安を抱えている例が少なくない。そんな現役選手を支えようと、アスリート経験者たちが立ち上げた団体がある。ホッケーの元日本代表で2021年東京五輪出場の山田明季さんが代表を務める「Making an ERA」(以下MAE)。2023年11月下旬に第2回のワークショップを開いた。近年、心身の健康や幸福を意味する「ウェルビーイング」が一般的にも重要視されている。スポーツの現場にいた張本人たちが現役の女性アスリートの悩みに耳を傾け、サポートしていく活動は先進的で、注目を集めている。
歯の詰め物に似た喪失感
オンラインで開催されたワークショップは題して「どんな選択肢がある? ~引退を迎えたアスリートのその後~」。目玉企画はゲストパネラーによるディスカッション。メンバーは米プロバスケットボールNBAの元チアリーダーの平田恵衣さん、看護師として働きながらプロサーファーでもある庵原美穂さん、会社員と同時にパラ陸上選手でもある銭場望美さんの3人。それぞれの経歴を踏まえながら苦労話や逆境を乗り越えた経験談、人生に対する考えを披露し、参加者の興味を引きつけた。 平田さんは大学を卒業して一般企業へ就職後、夢を捨て切れずにNBAチアリーダーに挑戦。オクラホマシティー・サンダーに合格し20代後半で渡米した。世界中で一握りしかなれない狭き門。毎年トライアウトを受けなければならない過酷さがあり「来年の今頃、自分は何をしているのか分からないという恐怖感がありました」と述懐した。そんな中でも果敢に挑み、途中帰国を挟みながら通算6シーズンも務め上げた。 最終的に2022年に引退し、今はチアダンスコミュニティー「Dance with Kei」の代表や振付師などとして幅広く活動している。現役を辞める際の心境について「競技を離れたときの生活の変化は何度やっても難しかったです。 アイデンティティーがなくなることは、歯の詰め物がぱかっと外れたような喪失感。なかなか埋まりませんでした」と告白した。それでも、スポーツ関係を含めてさまざまな業界の人たちと積極的に交流したり、常に多方面にアンテナを張ったりして前向きな姿勢をキープ。日本スポーツ仲裁機構の職に就いたこともあった。「一回一回のチャンスにどん欲に挑むマインドや、環境の変化に適応するスキルが身に付いたと思います。自分の価値がなくなるわけではないので、全力でキャリアを楽しむことが大切だと思います」と力説した。