関東大震災から100年…生成AIで証拠をでっちあげ!?SNS時代の震災と情報について聞いた
――なぜ、震災発生時に「外国人が犯罪を引き起こしている」という流言が広がるのでしょうか。 「災害時には自分や家族友人が身の危険にさらされているのではないかという不安の感情が非常に強くなります。しかし非常に強い不安を感じているのに、周囲を見渡すと自分にあまり大きな危険が迫っていなかったとすると、自分の不安感と外部の状況との間に矛盾が生じます。人々はその矛盾を解消するため、本当はもっと悪いことが起きているのではないかと考えます。『災害時だから犯罪が頻発しているのではないか』と考えたり、外国人に対する先入観も加わって、『そのような犯罪を行うのは外国人だろう』と憶測が生まれたりするのです。 「流言は一種の伝言ゲームです。伝言ゲームは、5人よりも10人、10人よりも20人で行う方が、伝言内容が大きく変化します。同様に流言も、人づてに伝えられていくことで内容が変わっていきます。たとえば日本人による軽微な犯罪が流言のきっかけとなって、人から人へと伝えられていく中で、『重大な犯罪が行われた』、『犯罪を行ったのは外国人だ』、『外国人の犯罪集団が犯罪を行っている』などと内容が変化していくことが考えられます」 「被災地以外の地域から流言が発信されることもあります。ひとたび大震災が起これば、被災地以外の人々も『今後日本はどうなるのだろう』と不安に駆られるでしょう。しかし災害による直接的な身の危険があるわけではありません。不安と身の危険の不在という矛盾を解消するため、人は他の人と災害について話したい、不安を共有したいと考えます。そうして交わされる話の中で、無意識のうちにいかにもありそうな危険が作り出される可能性があります。 見聞きした情報がつなぎあわされるうちに、『報道されていないが、本当はこのような危険が生じているのではないか』と推測され、流言が流れるのです。『危険が生じているはず』と信じているにも関わらずその証拠が見当たらない場合には、自ら生成AIを使って証拠らしきものを作成し、拡散してしまうことも考えられます」 「なお、人は同じ情報を何度も見聞きすると、それを事実だと考える傾向があります。『外国人が犯罪を引き起こしている』という情報を初めて聞いた時は半信半疑だったとしても、うわさ話やSNSで繰り返し見聞きするうちに、『この情報は何度も聞いているので、事実だろう』と信じてしまうのです。しかし、同じ情報を何度も見聞きすることは、その情報が事実であることを意味しません。情報が正しいかどうかは、公的機関の情報やマスメディアの情報などと突き合わせ、クロスチェックして判断して下さい」 ――避難情報など、自治体はどのように発信すべきで、生活者は何に気を付けて情報収集すべきが教えて下さい。 <自治体がすべきこと(流言対策に限定して)> 「自治体がSNSでやり取りされている情報に目配りして、悪影響を引き起こしかねない流言が拡散した場合は、すぐに打ち消し情報を発信することが望ましいです」 「その際は、人々が今知りたがっている情報は何か、という情報ニーズを把握して、ニーズに合った情報を的確に発信する必要があります。具体的には、①どのような偽情報かを特定し、②偽情報を明確に否定し、③否定の根拠を示すことが必要です」 <生活者の情報収集> 「Twitter認証バッジが有料化したことは、自治体などがTwitter上で発信する情報の信頼性を判断するハードルを上げました。しかし認証マークがなくても実質的な公的アカウントは現在も多数運用されています。災害時にはそれらのアカウントから発信される情報を参考にすることが可能です。アカウントの開設時期やツイート数、フォロワー数、投稿内容などを総合的に判断すれば、偽アカウントに騙される危険性をある程度減らせます」 「Twitterだけでなく公的機関のウェブページやInstagramなど他のSNSアカウント、マスメディアの情報など、複数の情報チャンネルを比較することで、正確な情報を収集できる可能性が高まります」 ◆◇◆ 情報があふれる現代を生きる私たちは、同じ悲劇を二度と繰り返さないよう、震災時の情報との向き合い方が問われています。(取材・文:社会部 和田弘江)