今聞くべき講談師・神田愛山 ソニー「来福」がCD化 神田伯山が一門の「おじ」として慕い教えを乞う人物
【渡邉寧久の得するエンタメ見聞録】 ここ数年、聞き逃していたことを恥じた演芸人が2人いる。1人は落語家のむかし家今松(78)、もう1人は講談師の神田愛山(70)だ。 コロナ禍の寄席に鈴本演芸場の鈴木敦席亭が今松を積極的に顔付けし、そのよさを観客に再発見させた。以来、今松の出番は多い。 根強いファンに支えられてきた愛山の芸に目をつけたのは、ソニー・ミュージック落語レーベル「来福」だ。先ごろCD「神田愛山 講談集」を発売した。これまで、古今亭志ん朝や柳家小三治、人間国宝・五街道雲助らの芸をCDで残してきた「来福」が、愛山の芸を残したのである。 人気講談師・神田伯山(41)が一門の「おじ」として慕い、教えを乞う人物。「20代の中ほどからアルコール依存症という病に取りつかれて、31歳で(酒を)やめるまでどん底でした」という地獄を見た男。依存症から脱却したころの高座が、私の最初の愛山体験だった。別の依存症に悩む方と魂を寄せ合い、私鉄沿線の自宅で講談会を開いていた頃の古い話だ。 今年芸歴50年。「古希と芸歴50年がぴったり重なりました。こんな無名の男のCDが売れるのか。現実感がない。人生のけじめというか置き土産」と、愛山ははしゃがない。 収録演目は「寛政力士伝~谷風の情け相撲~」と「敵討母子連れ」(原作・菊池寛)。「敵討~」は、「古本祭りで見つけ、たまたま読み始め、結末に衝撃を受けて講談にした」という愛山オリジナル。 「講談はダンディズム」と愛山は唱える。ダンディズムを構成するのは「敗者の美学」「自己犠牲」「散り際の美しさ」の三要素で、「敵討~」にはそれが凝縮されているという。 美学に感動した落語家の柳家喬太郎(60)に自分の会でやってほしい、とリクエストされたことがある。CDのライナーノーツでは演芸研究家の瀧口雅仁氏が「講談美に浸ることのできる愛山代表作である」と太鼓判を押す。 今週、CD発売を記念した「神田愛山芸道五十周年三夜連続独演会」が東京・内幸町ホールで行われ、連日満席。今月30日には、東京・イイノホールで「神田愛山→神田伯山『相伝の会』」が開かれる。