「学校の現場と同じように」の言い分で講師に残業代を支払わない学習塾経営者の大きな間違い 教員の時間外勤務制度について弁護士が解説
公立学校の教職員は法律により残業代が発生しない。そのルールに則り、塾講師や私立学校の教師にも残業代を払わないというのは許されるのだろうか。実際の法律相談に回答する形で、弁護士の竹下正己氏が解説する
【相談】 学習塾の講師です。近頃、残業が多いのに、残業代が支払われません。この状況に対し、経営者側は「うちも学校と同じように、“時給法”で対処していきます」と宣言。その“時給法”とやらの意味がわからず、用語を間違えていると思うのですが、なんにせよ、残業代を支払わないのは間違っていますよね。 【回答】 私も“時給法”の意味がわかりません。給料の額を時給により、計算する方法のことであれば、1時間当たりの賃金額を算出して計算するのが残業代の計算方法ですから、残業代を支払わない理屈にはなりません。推測するに、あなたからの残業代請求に対し「学校の現場が時給法だから、塾も同じ」という経営者側の言い分は、教員の時間外勤務の制度に関する誤解に基づいているように思えます。 学校の教員には、残業代の支払いがないと報道されることがありますが、それは公立学校のみ。『公立の義務教育諸学校等の教育職員の給与等に関する特別措置法』(給特法)は、公立の高校以下の教員の給与等に関する勤務条件を定めた法律ですが、その第3条で「教育職員については、時間外勤務手当及び休日勤務手当は、支給しない」と定めています。
公立学校の先生は、残業しても残業代がもらえないのです。その代わり、自治体の条例で定める給料の4%を基準とする教職調整額が支給されます。また、『給特法』の適用がある公立学校の場合でも、実情はともかく、文科省の説明では残業を命じることができるのは、実習や学校行事、職員会議、非常災害などに必要な業務に従事するケースであって、臨時または緊急のやむを得ない事情があるときに限るとされています。 なお、『給特法』の適用がない私立学校では、教職調整手当の支給はありませんが(学校によっては固定残業代の支給がある場合も)、残業を命じた学校側には、当然に残業代の支払い義務が生じます。 この『給特法』を念頭に置く塾の経営者側の主張は誤りです。講師に残業を命じたのに『給特法』を根拠にして残業代の支払いを拒否することはできず、その不払い行為は犯罪となります。早急に、基準監督署に相談してください。 【プロフィール】 竹下正己(たけした・まさみ)/1946年大阪生まれ。東京大学法学部卒業。1971年弁護士登録。 ※週刊ポスト2024年6月21日号