ひとりの人類学者の登場ですべてが変わった…20世紀の学問史を塗り替えた男が「発明」した「とっておきの調査手法」
思いがけないことが起きた
マリノフスキはウェスターマークのもとで『オーストラリア先住民の家族』という論文を書き、科学博士号を取得しています。しかしマリノフスキはこの頃から、文献だけに依拠する研究には限界があると感じるようになりました。文献でしか知らないオーストラリアの先住民に実際に会って、自身の目でその暮らしを確かめてみたいと思い、奨学金を願い出て、それが認められます。 ところがマリノフスキがオーストラリアに渡っているちょうどその時に、第一次世界大戦が勃発します。オーストリア国籍で、敵国人でもあったマリノフスキは収容される恐れがありました。そうなると研究どころではありません。ですが、彼はオーストラリア政府から保護観察処分とされます。さらに彼が望むのならば南西太平洋地域での現地調査をしてもいいとの許可を与えられ、その上資金提供まで受け取るという幸運に恵まれたのです。マリノフスキの思いがけない僥倖によって、結果として人類学が大きく進展することになりました。そう考えると、研究者の個人的事情と時代背景、学問の発展との関係は、本当に不思議なものです。 さらに連載記事〈日本中の職場に溢れる「クソどうでもいい仕事」はこうして生まれた…人類学者だけが知っている「経済の本質」〉では、人類学の「ここだけ押さえておけばいい」という超重要ポイントを紹介しています。
奥野克巳