朝ドラ『おむすび』を実は支えている“63歳女優”。ドラマ全体を活気づけてくれるワケ
橋本環奈主演の朝ドラ『おむすび』(NHK総合)には、毎朝の放送が楽しみになる声の持ち主がいる。 キムラ緑子である。回想場面での少ない出演ではあるものの、その声がちゃきちゃき活気付けてくれる。魔法の声だ。 イケメン研究をライフワークとする“イケメン・サーチャー”こと、コラムニスト・加賀谷健が、毎朝、毎週の放送を楽しみにさせ、さらには無言の演技でも視聴者を魅了するキムラ緑子について解説する。
毎朝の放送が楽しみになる声の持ち主
朝ドラ『おむすび』では、橋本環奈演じる主人公・米田結が福岡のギャル軍団「博多ギャル連合」(ハギャレン)の一員として平成真っ只中を駆け抜けながら、彼女が幼少期を過ごした神戸時代の回想が織り込まれている。 第4週第17回、結の祖父である米田永吉(松平健)の農家を継ぐ前の父・米田聖人(北村有起哉)は、神戸で床屋を営んでいた。散髪にきたお客の他、近所の面々が店内でストレッチしている。そんなゆる~い雰囲気。その中にひときわ魅力的な声の持ち主がいる。 近所の惣菜屋である佐久間美佐江だ。演じるのは、キムラ緑子。店内の入り口側の角近くに陣取り、にこにこうなずく美佐江が、ひと声発するだけで、店内がパッと華やぐ。ドラマ全体を活気付け、毎朝の放送がなんだか楽しみになる声である。
変幻自在な声色
美佐江が、いつものことのように結の母・米田愛子(麻生久美子)に紙袋を渡す。中から取り出した石鹸を手渡すとき、「ふぅっ」と鼻からぬける短い高音を響かせる。幼い結たちには「あんたらにはなぁ」とごそごそ惣菜を差し入れる。 「こーれぇー」と今度は語尾がかなりの低音。不思議そうに惣菜が入った袋の中を見つめる結(磯村アメリ)に「お野菜の揚げびだしぃ~」と軽快に説明する。この短時間の出番中、キムラ緑子の声は、高音から低音へ変化するだけでなく、語尾にかけて早口言葉になるセリフ回しを披露してみせる。 なんて変幻自在な音色をもった俳優なのだろう。音域が広い。現行オペラの世界には、ソプラノより低い音域のメゾソプラノが男性役を演じるズボン役(英語ではパンツ・ロール)というのがあるが、キムラの音域ならズボン役まで引き受けられそうだ。そうした音域の幅によって、本作のメイン舞台である福岡に対してあくまで回想場面として挿入される神戸編を自分が支えてみせようという、マジカルな心意気すら感じる。