意外と知らない、「南海トラフ巨大地震が富士山噴火を誘発する」可能性が高いと言える理由
2011年3月11日、戦後最大の自然災害となる東日本大震災が発生した。あれから13年、令和6年能登半島地震をはじめ何度も震災が起きている。 【写真】日本人が青ざめる…突然命を奪う大災害「最悪すぎるシミュレーション」 しかしながら、これから起きうる大きな自然災害(首都直下地震、南海トラフ巨大地震、富士山噴火)について本当の意味で防災意識を持っている人はどれほどいるだろうか。 もはや誰もが大地震から逃れられない時代、10刷ベストセラーの話題書『首都防衛』では、知らなかったでは絶対にすまされない「最悪の被害想定」が描かれ、また、防災に必要なデータ・対策が1冊にまとまっている。 (※本記事は宮地美陽子『首都防衛』から抜粋・編集したものです)
富士山噴火と地震は連動する
新型コロナウイルスの感染拡大まで年間20万人を超える登山者が訪れた日本最高峰の富士山は、溶岩や火山灰を噴出して現在のシルエットが形成された。 直近の噴火は1707年の「宝永噴火」まで遡るが、富士山はまぎれもなく日本一の活火山だ。2021年に富士山噴火を想定したハザードマップが改定され、関係自治体は“休眠状態”から目覚めることを警戒する。だが、最も危険なシナリオは「地震」と「噴火」の連動であることを忘れてはならない。 富士山は、フィリピン海、ユーラシア、北米(オホーツク)という3つのプレート境界に位置する我が国最大の玄武岩質の成層火山だ。 前回の「宝永噴火」から300年以上が経過しているため「富士山はもう噴火しない」と誤解している人もみられるが、過去5600年間には約180回もの噴火が起きてきた。単純計算すれば約31年に一度のペースで、休眠状態にある今日が“異常”と言える。富士山の長い歴史を紐解けば、「いつ噴火してもおかしくない」と見ることもできるのだ。 注目すべきなのは、「地震」が「噴火」を誘発するとも考えられることだ。内閣府によれば、20世紀以降に世界で発生した大地震の発生後、数年以内に誘発されたと考えられる火山活動が相次いでいることがわかる。 たとえば、20世紀最大の噴火とされる1991年のフィリピン・ピナツボ火山噴火は、1990年7月のフィリピン地震の11ヵ月後に噴火した。2004年のインドネシア西部スマトラ島沖地震が起きた4ヵ月後にはタラン山、1年3ヵ月後にメラピ山、3年後にケルート山が噴火。日本でも2011年の東北地方太平洋沖地震発生後に北海道から九州にある22の火山で火山性地震の増加がみられている。 東北大学の西村太志教授(地球物理学)は世界の地震と噴火の関係を解析し、大地震による火山噴火の誘発メカニズムを明らかにした。強震動だけでは火山噴火を誘発するとは言えないものの、大地震発生の応力解放によって膨張を受ける火山はマグマ内の気泡成長などによりマグマ上昇が促され、噴火が発生しやすくなる。 ペットボトル入りの炭酸水にたとえるならば、蓋を取った瞬間に圧力が緩むことで泡が上がってくるイメージだ。大地震の震源の周囲には、潰れていたスポンジが解放されたような「膨張場」と「収縮場」ができる。このうち「膨張場」にある火山(0.5マイクロストレイン以上)は大地震発生から10年ほどの間、火山噴火の発生頻度が2~3倍高まるのだという。 東日本大震災の際には東北から関東まで広い範囲に「膨張場」がみられ、西村教授は「地震で発生した『膨張場』に噴火準備ができている火山があると、地震が噴火のトリガーになるのではないか」と指摘する。 国土地理院では、数十億光年離れた天体からの電波をパラボラアンテナで受信して、プレート運動などを測定していた。約6000キロ離れたつくば市とハワイの距離を約15年にわたって測った結果、毎年約6センチずつ近づいていたが、東北地方太平洋沖地震で約65センチ接近したことがわかったという。地震直後には観測史上最大の地殻変動が生じ、震源地に近い宮城・牡鹿半島付近で5.3メートル、千葉県銚子市付近でも17センチの変動が観測されている。 東京大学の辻健教授(物理探査)らは、2016年4月の熊本地震が半年後の熊本・阿蘇山の中岳の火山活動に影響したことを解析した。地殻内を伝播する人間には感じることのできない微小な振動(微動)を利用することで、地震後、マグマだまりの近くの弾性波速度が低下したことを明らかにした。さらに噴火後、弾性波速度は上昇した。 弾性波速度とは、地盤を伝播するP波やS波の速さを表し、地盤の硬さや水圧の状態の変化を反映する。この弾性波速度の変化から、地震でマグマだまりの圧力が上昇し、噴火を誘発したこと、さらに噴火後に圧力が下がったことが明らかになったという。 辻教授は「弾性波速度や波形の時間変化、山の膨らみのデータを組み合わせ、AIで噴火前に見られる重要なシグナルを見つけ出せば、噴火の危険度を予測することが可能になる。すでにある程度の精度では予測できることが確認できている」と研究を深める。 言うまでもなく、日本は世界有数の「火山国」だ。世界には約1500の活火山があるといわれるが、その1割近くが我が国に存在する。気象庁は今後100年程度に噴火の可能性があることを踏まえ、富士山を含む50ヵ所の火山を24時間態勢で監視している。だが、西村教授が指摘するように「地震が噴火のトリガー」となることがあれば、大地震の襲来とともに富士山の噴火が誘発される急展開も想定しなければならない。 実際、今から約320年前の宝永噴火が起きた直前には巨大地震が襲来しており、その恐怖が再来しない保証はまったくない。 東京大学の藤井敏嗣名誉教授(山梨県富士山科学研究所所長)は、「南海トラフは富士山の近くを揺らす。富士山がそれまでに噴火をしていなければ、南海トラフ巨大地震が噴火を誘発する可能性は高い」と警鐘を鳴らす。高い確率で発生すると予想される首都直下地震、南海トラフ巨大地震の襲来に加え、富士山の噴火が重なる「大連動」にも備えなければならない時期を迎えているのは間違いない。 つづく「『まさか死んでないよな…』ある日突然、日本人を襲う大災害『最悪のシミュレーション』」では、日本でかなりの確率で起こり得る「恐怖の大連動」の全容を具体的なケース・シミュレーションで描き出している。
宮地 美陽子(東京都知事政務担当特別秘書)