「金ちょうだい」飲み代欲しさに強殺未遂 少年に道を誤らせた母親の「正論コントロール」
「おっさん、金ちょうだい」。大阪市内の公園で60代男性に声をかけた少年=当時(17)=は、男性が応じないと見るや顔を殴り、包丁で腰と太ももを刺した。「犯罪とも思っていなかった」。男性に大けがをさせ、強盗殺人未遂罪などに問われた大阪地裁の法廷で、少年はこう供述した。なぜ後先も考えず、安易に重大犯罪を起こしたのか。背景として浮かび上がったのは、わが子を思うあまり「正論」を振りかざしてきた母と、息子の確執だった。 【表でみる】強盗殺人未遂事件を起こした少年の成育歴 事件が起きたのは令和5年12月15日の午後7時過ぎ。少年は暴行の末にかばんを奪い、財布から現金約1万3千円を抜いた。この日、心待ちにしていた友人との飲み会を前にして金がなく、「何をしてでも用意する」と思い立ったのが動機だった。 少年事件のため、裁判は傍聴席から被告が見えないよう遮蔽板を立てて行われた。少年は今月2日の初公判で「殺すつもりはなかった」と殺意を否認したが、行為自体は認め、審理時間の多くは成育歴の解明にあてられた。 ■幼いころは英才教育も… 教育熱心な家で育ち、幼稚園では英才教育を受けるなど「親の期待に応えて頑張っていた」(母親)。しかし、母親が働きながら大学院に進学し、深夜まで祖母宅に預けられるようになった小学校高学年以降、状況は雪だるま式に悪化する。 家に置いてある現金を盗むようになり、中学生になると不良グループに加わった。手を焼いた両親は少年を児童福祉施設に預けたが、卒業後は別の不良グループを結成してけんかに明け暮れ、一時少年院にも入った。大阪・ミナミで客引きをしていた頃に「半グレ」や暴力団組員と関係を持ち、暴力団抗争に参加したこともあったという。 なぜこうなったのか。日常的に暴力を振るった父親の存在もあるが、少年やその家族と面接を重ね、心理鑑定を行った臨床心理士の証人は「非行の根底には母親に対する悲しみ、うらみ、報復があった」と証言した。中でも母親による「正論コントロール」が与えた影響が大きかったという。 例えば、金を盗んだ人に「それは泥棒。絶対にするな」と言うのが正論。その内容は正しい。それゆえ反論は許されず、言われた側は否定されて終わる。