『蛇にピアス』著者・金原ひとみさん(41歳)は17歳&13歳の母も「第二子で流産を経験後、自分が自分でなくなっていく感覚が…」|美ST
常に話題作を世に放ち続ける金原ひとみさんは、41歳にして作家歴20年超え。私生活では17歳と13歳の2人の娘を育てる母としての面もあり、美ST世代と同じく悩みながらも子育てに向き合われています。そんな金原さんにはなんと「もう1人子供を産まないと、何も手にしていないのと同じだ」という思いに捉われた過去があり、それが最新作『ナチュラルボーンチキン』での大きなポイントにも繋がっていると語ります。知られざる妊娠エピソード、さらに「こんな母親もいたなと思いながら巣立ってほしい」と話す金原さんの娘たちとの接し方など、子育てと仕事を両立する1人の女性としての一面が垣間見えるインタビューをお届けします。
■お話をうかがったのは…作家・金原ひとみさん(41歳) 《Profile》1983年8月東京都生まれ。デビュー作である『蛇にピアス』で第27回すばる文学賞、第130回芥川賞を受賞。受賞作を掲載した文藝春秋は累計118万部を超え、現在も破られず歴代1位の発行部数を記録。2010年『TRIP TRAP』で織田作之助賞、2012年『マザーズ』でドゥマゴ文学賞、2020年『アタラクシア』で渡辺淳一文学賞、2021年『アンソーシャル ディスタンス』で谷崎潤一郎賞、2022年『ミーツ・ザ・ワールド』で柴田錬三郎賞を受賞するなど、数々の文学賞を受賞。各文学賞の選考委員も務める。他著書に『アッシュベイビー』『持たざる者』『腹を空かせた勇者ども』、エッセイに『パリの砂漠、東京の蜃気楼』などがある。最新作は『ナチュラルボーンチキン』(河出書房新社)。
人生をぐちゃぐちゃに変えるほどの壮絶な引力を有する「子供がほしい」という感情
今回の最新作『ナチュラルボーンチキン』では、主人公が自らをルーティンの中にガチガチに嵌め込んで生活をしていますが、そこに至る原因となった壮絶な過去として、彼女が経験した不妊治療が浮き彫りになっていきます。 カギとして不妊治療を選んだ背景には、友人の体験談と、私自身の流産の経験があります。私は1人目を生んだ後に流産したのですが、それまでは正直2人目が欲しいとは全然思っていませんでした。子供1人でも大変なのに、さらにもう1人なんて絶対に無理だと。ですが2人目を流産したとき、「もう1人欲しい」と体内から込み上げてくるような欲望が芽生えたんです。「次の子を生まないと、私は何も手にしていないも同然だ」と思い詰めるようになってしまいました。ホルモンバランスがメンタルに影響していると分かってはいても、メンタルに支配されて自分が自分でなくなっていくような感覚がありました。 さらにその後、不妊治療をして子供を出産した友人の体験談や、彼女が産婦人科で見てきたことなどの話を聞いて、「いつか小説に書いてよ」と言われたことも、この設定を導入した理由の一つです。45歳の独身女性である主人公が至ったルーティン生活が、年齢を重ねることでの合理性の追求の結果、というふうにはしたくなかった。何かで覆わないと生きていけないほどの過去があって、それゆえに自分を守る必要性に迫られルーティン生活に身を投じた、という流れが小説を書くうえで絶対に必要でした。そうしたキャラ作りをしていく中で、「彼女になら、今まで見て聞いてきた子供を望む思いを託せる」と確信したんです。