円安で国内消費は「壊滅状態」に…日本経済をぶっ壊す「スタグフレーション」のヤバい現状
カネ余りが原因に
日本でも物価上昇が顕著なってきた当初、多くの専門家が原油価格の高騰など、一次産品の値上がりが原因であり、その影響は一時的なものにとどまる主張していた。教科書でいうところのコストプッシュ・インフレであり、大規模緩和策で想定していたインフレとは異なるという理屈である。 しかし、歴史を丹念に追い、経済の本質を追求している人間からすると、一次産品が値上がりしただけで、持続的、かつ広範囲に物価が上昇するということはあり得ない。歴史を辿れば一目瞭然だが、継続的にインフレが発生する時には貨幣要因や財政要因がほぼ必ずといってよいほど絡んでいる。 コストプッシュ・インフレ、ディマンドプル・インフレという言葉は、学生などが分かりやすいように教科書で用いられている分類に過ぎず、インフレというのは基本的に複合要因と考えるべきだ(実際、インフレへの対処法はインフレの種類を問わず同じというのが経済学の常識である)。 一次産品の価格が上昇していることだけがインフレの原因であるならば、マンションの価格が一気に28%も上がるということはあり得ない。背景に大規模緩和策によるカネ余りがあり、余剰のマネーが不動産投資に向かっていることは明らかである。 株価についても同じようなことがいえる。日経平均株価は過去2年で約2割上昇したが、これは円安による企業価値の棄損分を調整しているに過ぎない。 日本円は過去2年間で1ドル=100円台から150円台と3分の2に減価した。日本円の価値が下がったからといって、グローバルにビジネスを展開しているトヨタなどの企業価値が下がったわけでない。日本円ベースの株価は、日本円そのものの価値が下落した分だけ上昇しなければ辻褄が合わない。
日本はどうすればいいのか
この理屈で考えれば、日経平均は1.5倍になって当然ということになり、今の株価上昇は特段驚くべきものではないとの解釈になる。 大規模緩和策によってマネーが余剰になったところに円安が加わり、不動産価格上昇に伴う資産効果もあって、株式市場に資金が回っている。コストプッシュ・インフレだけの要因であるならば、企業にとっては基本的にマイナス要因ばかりであり、株価はあまり上昇しない。 物価上昇がなかなか収まらないどころか、さらに悪化する可能性が高くなっていることや、不動産価格や株価が上昇しているのは、今の日本で発生しているインフレが複合的要因であることを如実に示している。 では、日本はどうすればよいのか。 インフレが進行している最中に財政出動するとインフレをさらに悪化させるというのは、経済学における基本中の基本であり、景気が悪いからといって単純に財政支出を拡大することは本質的な解決にならない(これはどの経済学の教科書にも書いてある基本である)。 不景気下におけるインフレ(つまりスタグフレーション)は非常にやっかいな現象であり、これに対処するには、企業の生産性を高め、付加価値を増大させることで賃金を上げるしかないのが現実だ。過去の歴史を見ても分かるように、スタグフレーションの克服には王道を追求するしか選択肢はない。
加谷 珪一