SNS時代の「負の側面」―アスリートへの“誹謗中傷”対策に動き出すスポーツ界
「情報流通プラットフォーム対処法」が国会で成立
選手たちへの中傷が相次いだことから、日本オリンピック委員会(JOC)はパリ五輪の期間中に異例の声明を出した。 「どれだけ準備を重ねても、試合では予期せぬこともたくさんあります。そのすべてを受け入れて、自分にできる最高のパフォーマンスを発揮すべく、アスリートはその場に立っています。応援いただく皆さまに、是非アスリートがこれまで歩んできた道のりにも思いをはせ、その瞬間を見守り、応援いただけますと幸いです」 発表文は穏やかな論調だったが、最後に「なお、侮辱、脅迫などの行き過ぎた内容に対しては、警察への通報や法的措置も検討いたします」と厳しい表現が盛り込まれた。法的措置というのが、今後を考える上で重要だ。 今年5月、国会では改正プロバイダ責任制限法が参院本会議で可決、成立した。これにより、同法は「特定電気通信による情報の流通によって発生する権利侵害等への対処に関する法律」に名称が改められ、通称「情報流通プラットフォーム対処法」(情プラ法)と呼ばれている。 「フェイスブック」「インスタグラム」などを運営するメタ、「X」(旧ツイッター)を運営するXといった大規模プラットフォーム事業者に対し、中傷投稿の削除申請があった場合、その迅速な対応や運用状況の透明化を義務づけるものだ。違反した場合、総務省は是正勧告や命令を出すことができ、応じない場合は1億円以下の罰金が科される。 もちろん、SNS投稿の規制をめぐっては、言論の自由という問題もある。ただし、人格を否定するような投稿は決して許されるものではない。差別的な「ヘイトスピーチ」と同様、厳しく対処なされるべきだ。 このような法律を適切に運用できるよう、スポーツ界も事業者と協力関係を結び、アスリートや競技関係者を守る責任がある。通報窓口の設置やメンタルヘルスの問題に対する対策も欠かせない。選手の安全管理という面で、SNSの中傷は今後最優先で取り組むべき課題だ。
【Profile】
滝口 隆司 毎日新聞論説委員(スポーツ担当)。1967年大阪府生まれ。90年に入社し、運動部記者として、4度の五輪取材を経験したほか、野球、サッカー、ラグビー、大相撲なども担当した。運動部編集委員、水戸支局長、大阪本社運動部長を経て現職。新聞での長期連載「五輪の哲人 大島鎌吉物語」で2014年度のミズノスポーツライター賞優秀賞。2021年秋より立教大学兼任講師として「スポーツとメディア」の講義を担当。著書に『情報爆発時代のスポーツメディア―報道の歴史から解く未来像』『スポーツ報道論 新聞記者が問うメディアの視点』(ともに創文企画)がある。