ミニの「FF」が時代を変えた 「RR」の牙城突き崩す
自動車の駆動方式でいうと、現在はFFの時代である。もちろん駆動方式それぞれにメリットとデメリットがあって、クルマの使用目的によって選択する方式が変わってくる。自動車は工業製品なので、新技術が開発されればその技術の影響を受ける。しかし産業である以上、世界情勢の影響からもまた逃れることができない。今回はRRからFFへと変わった大衆車の駆動方式に、技術と世界情勢がどのように影響を与えたか二つの面から考えてみたい。
RR時代のFFとは
FFは古くから存在する。代表的なモデルとしては1934年にシトロエンが送り出した『トラクシオン・アバン』がある。シトロエンは「FFこそが自動車にとって最良の駆動システムである」という揺らがぬ信念を持ち、後に1970年代に入ってもマセラティ製エンジンを搭載する『SM』で高性能FFの優秀性を訴え続けた「FF理想主義」を掲げるメーカーである。 これらの先駆的FFは現在のパッケージングに重点を置いたものと異なり、技術的トライアルとしての要素が高かった。英国のアルヴィスなどもFFのみならず、革新的な新技術に挑み続けた会社だ。後にFFに革命をもたらす立役者、アレック・イシゴニスもわずかな期間ながらこのアルヴィスに在籍していたことがある。 そうしたトライアルは少しずつだが実を結んでいき、1950年代から1960年代にわたる20年は、FFとRR、FRが混在する混沌とした時代がやってくる。それぞれが自らの信じるエンジニアリング的メリットを主張し、他方式のデメリットを指摘した。フロント荷重の不足を避けて、常時ステアリングが効くことを優先したいエンジニアはFFとFRにこだわり、トラクションとブレーキを重視したエンジニアはRRを追究する。 当時のFFはまだ縦置きが主流の時代だ。パッケージが未熟でスペース効率が優先される小さいクルマには向かなかった。シトロエンやアウディの縦置きFFモデルを思い起こせば、それが効率パッケージとは縁遠いエンジニアリングだったことが理解しやすいと思う。偉大なる『ミニ』が登場するまではFFはFRと同じくスペースの無駄が多い方式だったのである。