クォン・ヘヒョ、ホン・サンス監督による『WALK UP』を引っ提げて来日!「お会いできてうれしい」とギター弾き語りも披露
ホン・サンス監督の長編第28作目となる映画『WALK UP』(6月28日公開)のトークイベント付き日本最速上映会が6月6日にヒューマントラストシネマ有楽町で行われ、来日を果たした主演のクォン・ヘヒョが登壇した。 【写真を見る】会場に指ハートを送ったクォン・ヘヒョ 日本での韓流ブームの火付け役となったドラマ「冬のソナタ」のキム次長役で知られるヘヒョは、『新感染半島 ファイナル・ステージ』(20)や、Netflixドラマ「寄生獣 ―ザ・グレイ―」などでも活躍する名優。サンス監督作品の常連俳優でもあり、これまで10作品以上のサンス監督作品に出演している。都会の一角にたたずむ地上4階、地下1階建ての小さなアパートを舞台にした人間ドラマとなる本作では、『それから』(17)以来の単独主演を務めて、人生に迷走中の映画監督ビョンスを演じた。 上映後の会場から大きな拍手を浴びてステージに上がったヘヒョは、「20年前に『冬のソナタ』で来たことがある東京に、また来ることができました。ホン・サンス監督の作品を通して皆さんとお会いできてとてもうれしく思っています。本当に光栄です」と感無量の面持ち。ヘヒョが「映画はいかがでしたか?」と語りかけると、再び大きな拍手が上がっていた。またサンス監督からのメッセージも到着し、通訳が「自ら挨拶に行けなくて残念ですが、クォン・ヘヒョさんはこの映画の主人公であるだけではなく、私と一緒に多くの映画を作ったすばらしい俳優ですので、皆さんと楽しくお話できると信じています」とサンス監督からの言葉を代読した。ヘヒョは「昨日の夜遅くに、ホン・サンス監督からこのメッセージが届きました。私からこのメッセージをお伝えしようと思ったんですが、恥ずかしくてできませんでした」と目尻を下げ、会場を笑わせていた。 本作は、サンス監督にとって長編第28作目の作品となる。これまでも数多くのサンス監督の映画に出演してきたヘヒョは、「ホン・サンス監督と一緒に映画を撮る時は、いつも同じ形でオファーをいただきます。『いつからいつまで映画を撮る予定なんだけれど、時間はある?』と。それだけです」と楽しそう微笑み、「サンス監督は世界でも類を見ない、特別な撮り方で映画を作っています」と明かす。 撮影が始まるまでにサンス監督から知らされた情報は、「主人公は君だよ」ということ。そして「主人公の仕事は監督だ」ということ、「カンナムでおもしろい建物を見つけたので、そこで撮影をしたらきっとおもしろい物語ができるはずだ」ということだけだという。実際にそのアパートで最初から最後まで撮影が行われたそうだが、「どのような映画になるのか、私は撮影の前日までまったく知りませんでした。俳優が現場に着くと、撮影が始まる約1時間前にその日に撮影する分量の台本をいただきます。それは、監督が早朝に書いた台本です。そしてその日に撮影したものを土台として、監督のなかで考えを深めたことを次の日の計画の糧にします。つまり前日の内容を踏まえて次の日に撮る内容が決まるため、私たちは次の日に撮る内容を知らないんです」とサンス監督の現場の特別さを解説。「そんなふうにしながら繰り返し撮影をしたこの映画を、私はとても気に入っています」と監督への信頼感をにじませた。 さらにサンス監督の書く台本は「完璧だ」と力強く話したへヒョ。「俳優はそのなかでアドリブをすることは一切ありません。監督は精密に物語を作り、テイクを重ねて、何度も撮り直しをしながら作品をつくっていきます。台本をいただくのは撮影の約1時間前ですが、そういった状況を毎日続けて撮影をするのは難しい作業でもあります。本作にはワインを飲むシーンがありましたが、そこはワンテイクで17分間も撮り続けました。セリフの分量は、A4の紙にして5枚くらいの分量になります。そのセリフを一言も間違えずに、3人のアンサンブルで作りあげるので、かなりの集中力が必要でした」とサンス監督の撮影現場では、役者も特別な力を発揮することになると話す。 サンス監督と仕事をすることはとても刺激的な体験となる様子で、サンス監督作品について「非常に特別な構造を持っている」と分析したへヒョは、「驚くべきことなんですが、ホン・サンス監督はあれこれたくさん撮っておいて、時間軸を交換したり、時間の配置を変えたりと、編集の技術を使って映画を撮る方ではないんです。皆さんがご覧いただいた順番通りに、作品を撮り進めていきます。私も毎回、驚かされることばかり。『ワオ、これは一体どういうことなんだろう』『ワオ、これはなんだろう』という気持ちで、驚きながら撮っています」とニッコリ。「若いころから、ホン・サンス監督のファンでした。なんとか時間を割いてでも、サンス監督の作品には出たいと思っていました。監督の作品に出られるのはとても光栄なこと」としみじみとしながら、「28年以上にわたって、全世界においても唯一無二といわれる語り口を持っています。すばらしい芸術家で、ホン・サンス監督が全世界の人に届けているインスピレーションは本当に大きなものがあると思います」と敬意を表していた。 劇中ではギター演奏をする場面もあるが、ステージでへヒョがギターの弾き語りを披露するひと幕もあった。ギターが運び込まれると、会場からは「おおー!」という歓声と共に大きな拍手が上がった。照れ笑いを見せながらも、「上を向いて歩こう」を日本語で歌いあげたへヒョ。観客はその歌声に合わせて手拍子を鳴らし、へヒョが口笛を吹くと「フー!」という声で興奮を表すなど、大盛り上がり。歌い終わって拍手喝采が起こるなか、へヒョは「俳優になって33年が経ちますが、試写会の後にこんなふうに歌ったのは初めてです」と大きな笑顔を見せた。最後には「皆さんとお会いできてうれしい。これからも元気でお過ごしください」と日本のファンにメッセージを送ったへヒョ。彼のサービス精神旺盛でありつつ紳士的な振る舞い、チャーミングな笑顔や熱のこもったトークに、会場からは何度も拍手が上がっていた。 取材・文/成田おり枝